その成績表は「はい、終わり終わり」九十三先輩にひょいと取り返された。
「そんなわけで俺達、三国ちゃんのお陰で成績爆上がった組でしたー」
「俺は?」
「誰がお前なんかに感謝するか! この鬼め! お前の成績表も見せろ!」
雲雀くんの成績表をもぎ取った九十三先輩は、他の先輩達と揃って成績表を覗き込んだ。その顔は段々と渋いものとなっていく。
「……マジで噂通りのクソインテリだなお前」
「先輩達がバカなのでは?」
「よーし、表に出な。口のきき方から教えてやるから、先輩達が」
九十三先輩は雲雀くんの首に左腕を引っ掛けているけれど、雲雀くんの頭をかいぐりする九十三先輩の右手と迷惑そうな雲雀くんの顔を見ていると、ただじゃれているようにしか見えない。ただ先生はじっとこちらを見ているので、先輩による後輩いじめの現場ではないかと疑惑を向けているのだろう。
「あ、つか三国ちゃん、ちゃんと昴夜から聞いた? 海行く話」
「……聞きました、けど」
というか、先輩達はこのまま会話を続行するつもりだろうか? 一応、1年5組では終業式後のホームルームの真っ最中なのだけれど。
「三国ちゃんどんな水着買ったの? 昴夜に聞いても教えてくんなくってさあ」
「教えたじゃん! なんか服っぽいヤツって!」
間違いではない。そして桜井くんが(曲がりなりにも男子なのに)女子の水着をその程度にしか把握していないことが分かった。……でも男子は女子の服装に疎いものだし、そういうものだろうか。
「つか、三国ちゃん、水着買いに行った日、人酔いで死んでたんだって?」
遂に九十三先輩は椅子を引っ張ってきて雲雀くんの机と私の机の間に座った。何人かの子達が非難済みだったこともあって、先生は夏休み前最後のホームルームをあきらめたらしい。小声で「じゃあ登校日に……」と呟いてそさくさいなくなった。
「え……っと、まあ……」
なんだかこうしていると私まで問題児であるようだ。……いや、先輩達と一緒にいるだけで問題児なのかもしれない。
九十三先輩は雲雀くんの机に頬杖をつきながら「雲雀が気付いて介抱したんだろ? インテリのくせにスマートだよな」とニヤニヤ笑った。雲雀くんは無視だ。
「……九十三先輩、そういう話はどこから仕入れてくるんですか?」
「いやこれは昴夜に聞いた話」
「え、なんか言っちゃまずかった?」
「ううん、何も」
それはただの確信だ。やっぱり、桜井くんから仕入れると”体が弱い”なんて情報にはならない。能勢さんが”体が弱い”なんて口にできたのは、やっぱりどこかに新庄が噛んでるから……。
「おい九十三!」
バンッと盛大な音に思考は遮られた。なんだと思うまでもなく、声で誰なのか分かる。蛍さんだ。その蛍さんは怒鳴り声どおりの顔つきで教室内に飛び込んできた。
九十三先輩と残る4人の先輩達は「うわ見つかった!」「ヤベッ」と慌てて反対側の教室扉から飛び出そうとしたけれど、蛍さんが「動くなボケ!」と怒鳴れば九十三先輩以外は蛇に睨まれたカエルのように硬直した。九十三先輩だけは脱兎のごとく逃げ出したけれど、階段側を蛍さんにとられた時点で地の利はない。廊下からはダダダダッ、ドンッと謎の音が聞こえてきた。
暫く様子を見守っていると、さっき蛍さんの顔が出てきたところから再び蛍さんが出てくる。その手には首根っこ(ティシャツのなけなしの襟)を掴まれた九十三先輩がいる。でも身長差のせいで掴みづらそうだ。
「おい3年は集会あるつったろ。逃げんじゃねえ」
「そんなわけで俺達、三国ちゃんのお陰で成績爆上がった組でしたー」
「俺は?」
「誰がお前なんかに感謝するか! この鬼め! お前の成績表も見せろ!」
雲雀くんの成績表をもぎ取った九十三先輩は、他の先輩達と揃って成績表を覗き込んだ。その顔は段々と渋いものとなっていく。
「……マジで噂通りのクソインテリだなお前」
「先輩達がバカなのでは?」
「よーし、表に出な。口のきき方から教えてやるから、先輩達が」
九十三先輩は雲雀くんの首に左腕を引っ掛けているけれど、雲雀くんの頭をかいぐりする九十三先輩の右手と迷惑そうな雲雀くんの顔を見ていると、ただじゃれているようにしか見えない。ただ先生はじっとこちらを見ているので、先輩による後輩いじめの現場ではないかと疑惑を向けているのだろう。
「あ、つか三国ちゃん、ちゃんと昴夜から聞いた? 海行く話」
「……聞きました、けど」
というか、先輩達はこのまま会話を続行するつもりだろうか? 一応、1年5組では終業式後のホームルームの真っ最中なのだけれど。
「三国ちゃんどんな水着買ったの? 昴夜に聞いても教えてくんなくってさあ」
「教えたじゃん! なんか服っぽいヤツって!」
間違いではない。そして桜井くんが(曲がりなりにも男子なのに)女子の水着をその程度にしか把握していないことが分かった。……でも男子は女子の服装に疎いものだし、そういうものだろうか。
「つか、三国ちゃん、水着買いに行った日、人酔いで死んでたんだって?」
遂に九十三先輩は椅子を引っ張ってきて雲雀くんの机と私の机の間に座った。何人かの子達が非難済みだったこともあって、先生は夏休み前最後のホームルームをあきらめたらしい。小声で「じゃあ登校日に……」と呟いてそさくさいなくなった。
「え……っと、まあ……」
なんだかこうしていると私まで問題児であるようだ。……いや、先輩達と一緒にいるだけで問題児なのかもしれない。
九十三先輩は雲雀くんの机に頬杖をつきながら「雲雀が気付いて介抱したんだろ? インテリのくせにスマートだよな」とニヤニヤ笑った。雲雀くんは無視だ。
「……九十三先輩、そういう話はどこから仕入れてくるんですか?」
「いやこれは昴夜に聞いた話」
「え、なんか言っちゃまずかった?」
「ううん、何も」
それはただの確信だ。やっぱり、桜井くんから仕入れると”体が弱い”なんて情報にはならない。能勢さんが”体が弱い”なんて口にできたのは、やっぱりどこかに新庄が噛んでるから……。
「おい九十三!」
バンッと盛大な音に思考は遮られた。なんだと思うまでもなく、声で誰なのか分かる。蛍さんだ。その蛍さんは怒鳴り声どおりの顔つきで教室内に飛び込んできた。
九十三先輩と残る4人の先輩達は「うわ見つかった!」「ヤベッ」と慌てて反対側の教室扉から飛び出そうとしたけれど、蛍さんが「動くなボケ!」と怒鳴れば九十三先輩以外は蛇に睨まれたカエルのように硬直した。九十三先輩だけは脱兎のごとく逃げ出したけれど、階段側を蛍さんにとられた時点で地の利はない。廊下からはダダダダッ、ドンッと謎の音が聞こえてきた。
暫く様子を見守っていると、さっき蛍さんの顔が出てきたところから再び蛍さんが出てくる。その手には首根っこ(ティシャツのなけなしの襟)を掴まれた九十三先輩がいる。でも身長差のせいで掴みづらそうだ。
「おい3年は集会あるつったろ。逃げんじゃねえ」



