ぼくらは群青を探している

 私も口にしてしまったことではあるけど、桜井くんも雲雀くんは牧落さんを好きじゃないし大して仲良くないと思ってると思ってるんだな……。しかもそれをはっきりと言われているにも関わらず、雲雀くんは訂正することもなければ、桜井くんを(とが)めるように見ることもない。

「つまり! 俺がいいつってんのに英凜が俺を名前で呼ばないのは英凜が俺を好きじゃないし大して仲良くないと――……思われてたら……悲しいな……」

 これぞ完璧な反論! と言わんばかりにまるで演説でもするかのような手と口の動きが、瞬く間に失速した。シュン……と桜井くんはそのまま手を下ろして顔も(うつむ)く。

「……そっか……俺、英凜に嫌われてたのか……」
「元気出せよ」
「フォローしろよ! つか英凜は早く訂正して!」
「面白いからこのままでもいいかなって」
「面白くない! つまり英凜にとっての俺は侑生にとっての胡桃と同じってことじゃん!?」
「三国、お前のこと相当嫌いだな」
「雲雀くん、牧落さんのことそんなに嫌いなの?」
「1回呼ばれるたびに好感度が5下がってる」

 嫌いじゃないなんて言ってた先週の雲雀くんはどこへいったのか。しかもその有様だと好感度はとっくにマイナスだ、私が気付いていないだけで雲雀くんが牧落さんに向ける視線は氷点下かもしれない。

「ねえ侑生と胡桃はもうどうしようもないからさ、俺と英凜をどうにかしよ? ね? てか俺がいいつってんのに軽率も慎重もなくない?」

 さりげなく対義語を組み合わせる桜井くんに国語のポテンシャルを感じた。本当に、桜井くんはなんでこれで試験の成績が悪いのだろう。そして雲雀くんと牧落さんの関係が修復不可能であることは流してしまっていいのだろうか……。

「……でも、ほら、桜井くんだけ名前で呼ぶのも変でしょ?」
「んじゃ侑生も名前で呼べば」

 雲雀くんは名前呼びが地雷では?

「つかお前早く勉強すれば?」
「そういう話してなくね? いま」

 雲雀くんもそうやってさりげなく話題を変えようとするし。

「でも今日は勉強しに来たんだよね?」
「つか勉強しないなら机片づけて三国のピアノ聞こうぜ」
「雲雀くんも勉強しに来たんだよね?」

 そもそも私のピアノはそんなに上手くない。こう言ってはなんだけど、音楽の(たしな)みがありそうな雲雀くんの前ではあまり弾きたくなかった。

「えー、そうしよ。俺もう勉強ヤダ」
「教科書開いてすらいなくない?」
「今日は英凜の頭がどれだけ良いかを聞く会」
「それ私がイヤな人だからやめて」
「ピアノ聴く会でよくね」
「なんで雲雀くんはそんなにピアノ聴きたがるの……」
「侑生ってピアノ習ってたんだっけ?」
「習ってたの?」
「小さいころ2年くらいやらされてやめた。ドレミしか分かんね」

 そうだとしてもやっぱり桜井くんより音が分かる人の前でピアノなんて弾きたくない。

「俺、ドレミ分かんないんだよねー。昔、母さんにドレミファソラシドの次って何くんの? って聞いたことある」
「桜井くん……」
「また苗字!」
「お前うるせーなマジで」
「逆に桜井くんはなんで名前で呼ぶことにこだわるの?」
「なんで……」
「別に名前で呼ぶことだけが親密度の高さを裏付けることじゃないと思うよ」

 桜井くんは唐突に考え込んだ。今まで一辺倒(いっぺんとう)(わめ)いていたのが嘘のようだ。

「……なんで? なんでだろ? でもやっぱ心の距離を感じるから以上にはない」