私はいつもそうやって、人の表情を解読している。文脈と言葉が持つ意味に論理則と経験則を適用して、合理的に推測される感情を導き出す。人を分類するのだって、その論理則と経験則を適用しやすくするためだ。
誰も彼もが簡単そうにやってのけるそれを、私はいちいち考えないとできなかった。それは例えば世間的には「無神経」だと言われることで、まさしく人より神経が足りていないのだと思った。みんなが過不足なく使うことのできる神経が、私はいつも不足している。それはきっと人に比べて頭が悪いからなのだと思っていた。──平野くんの件を取り沙汰されるまでは。
「……異常らしいよ。自覚症状はないけどね」
自覚症状──その単語からふと荒神くんとの会話を思い出した。
『私には全然、自覚症状ってヤツがないんだけどね』と答えた時、荒神くんは少しわざとらしいくらいに首を捻っていた。首の角度からすれば、意味が分からん、一体どういう意味なんだ、当の本人が何もわかってないなんてことがあるのか、そう言いたげな態度だった。
『つかもう聞いていい? なんの病気なの』
私の異常さを病気だと思い込んだ両親と、その両親から病気なのでくれぐれもよろしくと言われた中学の先生。結果、中学1、2年のときの担任の先生は『三国さんは病気なので気を使ってあげてくださいね』とアナウンスし、そういう言い方をされれば、クラスの子達が『体のどこかの具合が悪い』『体が弱い』と連想するのは当然で、実際、あの時のクラスメイトはそう思っている。でも陽菜みたいに仲のいい子には”そういうの”じゃないと伝えているから、例えば陽菜はぼんやりと『なんかどっか体が悪くてそのせいでできないことがある』くらいに考えている。ただ荒神くんは、ろくに話したこともないからそんなことは知らなくて、先生のアナウンスどおりの連想をして、それを覚えている。
『俺はこんなんだから覚えてるけど、普通そんなん覚えてないし』
そして、私についてそんなアナウンスがされたことを、荒神くんは、曰く自分は女子情報に詳しいから覚えているけど、普通は覚えていない、と……。
『三国ちゃん、体弱いんでしょ?』
ふ、と頭の中に、視聴覚教室に入る前、能勢さんと話していたときの写真が浮かんだ。
『でもほら、三国ちゃん、体弱いんでしょ? ここ最近群青に混ざってるの見てると妹感もあるし、本当の妹みたいに心配になるものなんじゃない?』
能勢さんと話していた時に抱いた違和感の正体に気付いてしまい、ひとりでゆっくりと目を見開いた。
……なんで、能勢さんは、私のことを“体が弱い”と思ってるんだ?
能勢さんは北中出身だ。当然私と接点なんてない。私が“病気”だと知り得るには東中の子から話を聞くしかない。でも荒神くんは“普通は”私が病気だと言われた話なんて覚えてないと言った。その感覚を信じるなら、東中の子達に話を聞いたって分かりやしない。陽菜に聞けば分かるとしても、それこそ陽菜は『英凜がどんな人か聞かれて、めっちゃ真面目でめっちゃ頭が良いみたいな話はしといた』と余計な話はしなかったような口ぶりだった。
『三国が1人だと体弱くて死ぬつーんで連れてきました』
新庄のいる倉庫に私と荒神くんが連れて行かれるとき、荒神くんが私のことを『体弱いんで』と庇ったこと、それを聞いた新庄の手下が、私は『1人だと体弱くて死ぬ』のだと新庄に伝えたこと。
そう考えると、“体が弱い”という、その言葉選びが示すのは──。
「……雲雀くん、荒神くんからなにか聞いた?」
誰も彼もが簡単そうにやってのけるそれを、私はいちいち考えないとできなかった。それは例えば世間的には「無神経」だと言われることで、まさしく人より神経が足りていないのだと思った。みんなが過不足なく使うことのできる神経が、私はいつも不足している。それはきっと人に比べて頭が悪いからなのだと思っていた。──平野くんの件を取り沙汰されるまでは。
「……異常らしいよ。自覚症状はないけどね」
自覚症状──その単語からふと荒神くんとの会話を思い出した。
『私には全然、自覚症状ってヤツがないんだけどね』と答えた時、荒神くんは少しわざとらしいくらいに首を捻っていた。首の角度からすれば、意味が分からん、一体どういう意味なんだ、当の本人が何もわかってないなんてことがあるのか、そう言いたげな態度だった。
『つかもう聞いていい? なんの病気なの』
私の異常さを病気だと思い込んだ両親と、その両親から病気なのでくれぐれもよろしくと言われた中学の先生。結果、中学1、2年のときの担任の先生は『三国さんは病気なので気を使ってあげてくださいね』とアナウンスし、そういう言い方をされれば、クラスの子達が『体のどこかの具合が悪い』『体が弱い』と連想するのは当然で、実際、あの時のクラスメイトはそう思っている。でも陽菜みたいに仲のいい子には”そういうの”じゃないと伝えているから、例えば陽菜はぼんやりと『なんかどっか体が悪くてそのせいでできないことがある』くらいに考えている。ただ荒神くんは、ろくに話したこともないからそんなことは知らなくて、先生のアナウンスどおりの連想をして、それを覚えている。
『俺はこんなんだから覚えてるけど、普通そんなん覚えてないし』
そして、私についてそんなアナウンスがされたことを、荒神くんは、曰く自分は女子情報に詳しいから覚えているけど、普通は覚えていない、と……。
『三国ちゃん、体弱いんでしょ?』
ふ、と頭の中に、視聴覚教室に入る前、能勢さんと話していたときの写真が浮かんだ。
『でもほら、三国ちゃん、体弱いんでしょ? ここ最近群青に混ざってるの見てると妹感もあるし、本当の妹みたいに心配になるものなんじゃない?』
能勢さんと話していた時に抱いた違和感の正体に気付いてしまい、ひとりでゆっくりと目を見開いた。
……なんで、能勢さんは、私のことを“体が弱い”と思ってるんだ?
能勢さんは北中出身だ。当然私と接点なんてない。私が“病気”だと知り得るには東中の子から話を聞くしかない。でも荒神くんは“普通は”私が病気だと言われた話なんて覚えてないと言った。その感覚を信じるなら、東中の子達に話を聞いたって分かりやしない。陽菜に聞けば分かるとしても、それこそ陽菜は『英凜がどんな人か聞かれて、めっちゃ真面目でめっちゃ頭が良いみたいな話はしといた』と余計な話はしなかったような口ぶりだった。
『三国が1人だと体弱くて死ぬつーんで連れてきました』
新庄のいる倉庫に私と荒神くんが連れて行かれるとき、荒神くんが私のことを『体弱いんで』と庇ったこと、それを聞いた新庄の手下が、私は『1人だと体弱くて死ぬ』のだと新庄に伝えたこと。
そう考えると、“体が弱い”という、その言葉選びが示すのは──。
「……雲雀くん、荒神くんからなにか聞いた?」



