……そうやって、雲雀くんも、器用にやってのける。ああ、でも、雲雀くんは頭の良い人だから、私と同じように誤魔化すことができているのだろうか。それは私には到底分からないことだった。哲学的ゾンビとは違って、|これ(・・)はボロが出ることだから、いつか分かるかもしれないし、私と話す間は永遠にボロが出ないのかもしれない。
「……さっきの話だけど」
「ああ」
雲雀くんが畳みかけてこなかったのは、もしかしたら、話したくないことだと察知したからなのかもしれない。
「……多分、保存しすぎるんだと思う」
「……保存?」
何を? そう聞かれるのは当然だった。……当然らしかった。私には分からないけれど。
「……雲雀くん、さっきのビル、2階に何のお店が入ってたか覚えてる?」
「……女の服」
「マネキンの服装、覚えてる?」
「……ティシャツと短パン」
「その色と柄は?」
「……覚えてねえ。覚えてんの?」
「覚えてる、というか」
エスカレーターで2階に上ったところ。ポーズを取ったマネキンとオレンジのティシャツに同系色のチェックのショートパンツ。エスカレーターを降りたところに表を向けるようにしてずらりと並ぶ服の手前は黒。「Honey bee」をもじった店のロゴ。レディースのショップ。
エスカレーターで3階に上ったところ。ネイビーのスーツとピンクのブラウスを着たマネキン。その隣には水色のブラウスにオフホワイトのタイトスカートをはいたマネキン。白、黄色、水色、ピンクのブラウスがその隣に平積みになっている。ベージュを基調とした店舗。「20+」というロゴ。またレディースのショップ。
エスカレーターで4階に上ったところ。降りたときにちょうど視界に入るように、バッグがいくつか並んでいる。水色、黄色、ピンク色。その棚の下に小物。カードケース、財布。ピンク色、黄色、白色。
頭の中には次々と写真が浮かび、それを見るたびに目の奥が痛んだ。気持ち悪い。頭がぐらぐらして吐き気がする。
「……それって、三国の頭が良すぎるだけなんじゃねーの」
私は何も言葉を紡がなかったのに、雲雀くんは無言を肯定だと受け取った。そしてそれは怪訝そうな声だった。同時に、怪訝そうだと分かるようになったことに安心する。雲雀くんとの会話は、きっと他の人とのそれよりも間違える確率が低い。
「……記憶力がいいのと、|異常に(・・・)いいのは全然違うよ」
「異常って」私が苦笑いしたのとは裏腹に、雲雀くんはペットボトル片手に笑い飛ばすような口調で「人よりちょっと店の様子覚えてるだけだろ。記憶力がいい、でいいじゃねーか。異常にいいってのは、例えばこれを一瞬で覚えるとか」
雲雀くんは冗談のようにペットボトルを私に向けて振ってみせた。私には、ラベルの成分表示部分が向けられている。それがくるりと翻された。
「できんの?」
「硬度38mg/l、栄養成分表示100ml当たり、エネルギータンパク質・脂質・炭水化物0、ナトリウム1.13mg……」
頭の中に保存された、ペットボトルのラベルの写真。それの中にある文字を読み上げているうちに雲雀くんの目が少しずつ大きくなる。ズキリと頭が痛んだ。
「……|異常な(おかしい)んでしょ」
つい、苦笑いしてしまった。雲雀くんは閉口した。
「……全部写真みたいに覚えてんの」
「……さっきの話だけど」
「ああ」
雲雀くんが畳みかけてこなかったのは、もしかしたら、話したくないことだと察知したからなのかもしれない。
「……多分、保存しすぎるんだと思う」
「……保存?」
何を? そう聞かれるのは当然だった。……当然らしかった。私には分からないけれど。
「……雲雀くん、さっきのビル、2階に何のお店が入ってたか覚えてる?」
「……女の服」
「マネキンの服装、覚えてる?」
「……ティシャツと短パン」
「その色と柄は?」
「……覚えてねえ。覚えてんの?」
「覚えてる、というか」
エスカレーターで2階に上ったところ。ポーズを取ったマネキンとオレンジのティシャツに同系色のチェックのショートパンツ。エスカレーターを降りたところに表を向けるようにしてずらりと並ぶ服の手前は黒。「Honey bee」をもじった店のロゴ。レディースのショップ。
エスカレーターで3階に上ったところ。ネイビーのスーツとピンクのブラウスを着たマネキン。その隣には水色のブラウスにオフホワイトのタイトスカートをはいたマネキン。白、黄色、水色、ピンクのブラウスがその隣に平積みになっている。ベージュを基調とした店舗。「20+」というロゴ。またレディースのショップ。
エスカレーターで4階に上ったところ。降りたときにちょうど視界に入るように、バッグがいくつか並んでいる。水色、黄色、ピンク色。その棚の下に小物。カードケース、財布。ピンク色、黄色、白色。
頭の中には次々と写真が浮かび、それを見るたびに目の奥が痛んだ。気持ち悪い。頭がぐらぐらして吐き気がする。
「……それって、三国の頭が良すぎるだけなんじゃねーの」
私は何も言葉を紡がなかったのに、雲雀くんは無言を肯定だと受け取った。そしてそれは怪訝そうな声だった。同時に、怪訝そうだと分かるようになったことに安心する。雲雀くんとの会話は、きっと他の人とのそれよりも間違える確率が低い。
「……記憶力がいいのと、|異常に(・・・)いいのは全然違うよ」
「異常って」私が苦笑いしたのとは裏腹に、雲雀くんはペットボトル片手に笑い飛ばすような口調で「人よりちょっと店の様子覚えてるだけだろ。記憶力がいい、でいいじゃねーか。異常にいいってのは、例えばこれを一瞬で覚えるとか」
雲雀くんは冗談のようにペットボトルを私に向けて振ってみせた。私には、ラベルの成分表示部分が向けられている。それがくるりと翻された。
「できんの?」
「硬度38mg/l、栄養成分表示100ml当たり、エネルギータンパク質・脂質・炭水化物0、ナトリウム1.13mg……」
頭の中に保存された、ペットボトルのラベルの写真。それの中にある文字を読み上げているうちに雲雀くんの目が少しずつ大きくなる。ズキリと頭が痛んだ。
「……|異常な(おかしい)んでしょ」
つい、苦笑いしてしまった。雲雀くんは閉口した。
「……全部写真みたいに覚えてんの」



