下着を買った後の牧落さんは、満足気な笑みを浮かべて「あーよかった。お年玉の残り使っちゃったけど」とゆらゆらお店の袋を揺らした。
「英凜、もっと買わなくてよかったの?」
「下着って高いからあんまり買えなくない? セールだから少し安くはなってたけど……」
「ごめんごめん、付き合わせちゃって」
「あ、そういう意味じゃない……」
文句を言いたかったわけではないし、当然謝らせたかったわけでもないのだけれど、口に出したこと以外の意味もなかったので口籠ってしまった。油断するとすぐこれだ。
「いいじゃん、あたし、表でニコニコして裏で悪口言う女子みたいなのキライだもん」
だから文句じゃなくてただの合理なんだけどな……と思ったけど説明することはできないので黙る。
それに、今はあんまり頭を使いたくない。うっすらと痛むこめかみを少し押さえた。
「あとほら、遠回しな言い方? 結局それって自慢したいだけでしょ、みたいなの」
「……まあ、そういうことをする人って器用だよね」
「器用?」
牧落さんはキョトッと目を丸くした。
「だって、普通にスムーズに喋りながらセリフに他意を込めたり、心にもないけど相手にとって気持ちがいいことを言えたりするって、器用っていうか、頭の回転が速いっていうか」
「え、逆じゃない? みんな普通にやってるし、てかそれただの性格悪い人」
……だから、頭が悪いのは私だけなんだ。
「ていうか、昴夜たちどこ行ったんだろ」
お店の近くにいたはずの桜井くんと雲雀くんはいつの間にか消えている。連絡を取ろうにも桜井くんは携帯電話を持っていない。牧落さんは「もー、だから早くケータイ買ってって言ってるのに」と携帯電話を睨みつけた。ピンク色のそれには携帯電話より大きなクマのぬいぐるみがくっついていた。
「……雲雀くんに連絡すれば出るんじゃない」
「侑生のケー番知らないんだよね。英凜知ってるの?」
「うん。電話かけてみる。……メール来てた」
気が付かなかったけれど、雲雀くんから「エスカレーター横の椅子にいる」と短いメールが来ていた。そういえばエスカレーターの横に椅子が4つ並んでいたな──とフロアに来たときの写真を頭の中で引っ張り出してしまって、目の奥から奇妙な気持ち悪さが押し寄せた。
「そっかー、侑生、英凜にはケー番もメアドも教えてるんだ」
牧落さんが雲雀くんの連絡先を知らない、その前提で、雲雀くんが私に連絡先を教えていることを指摘することの意味を、考える余裕がなかった。
「……なんか流れで」
だから容易には頷けずに誤魔化す。そのくらいのことをする元気はあった。
牧落さんは「そっかー、そっかー」と何度も頷きながら、ショップバッグを体の後ろで持ち直した。
「侑生ねー、あたしには連絡先教えてくれないんだよね。侑生の連絡先分かれば昴夜に連絡とりやすくなるのに」
「……雲雀くんはそういう伝書鳩が面倒なんじゃないかな。蛍さん相手にも断ってたし」
「あ、もちろん侑生にそんなこと言わないよ? 侑生には普通に教えてって言って普通に断られただけ。やっぱり侑生って英凜のことは好みなのかもね」
「それ、今日の雲雀くんに言ったら冗談抜きで殺されるよ」
牧落さんが初めて5組に来たときの写真が脳裏に出てきてしまって、眉間を指で押さえる。でもただ痛いだけでちっともよくはならない。
「英凜、もっと買わなくてよかったの?」
「下着って高いからあんまり買えなくない? セールだから少し安くはなってたけど……」
「ごめんごめん、付き合わせちゃって」
「あ、そういう意味じゃない……」
文句を言いたかったわけではないし、当然謝らせたかったわけでもないのだけれど、口に出したこと以外の意味もなかったので口籠ってしまった。油断するとすぐこれだ。
「いいじゃん、あたし、表でニコニコして裏で悪口言う女子みたいなのキライだもん」
だから文句じゃなくてただの合理なんだけどな……と思ったけど説明することはできないので黙る。
それに、今はあんまり頭を使いたくない。うっすらと痛むこめかみを少し押さえた。
「あとほら、遠回しな言い方? 結局それって自慢したいだけでしょ、みたいなの」
「……まあ、そういうことをする人って器用だよね」
「器用?」
牧落さんはキョトッと目を丸くした。
「だって、普通にスムーズに喋りながらセリフに他意を込めたり、心にもないけど相手にとって気持ちがいいことを言えたりするって、器用っていうか、頭の回転が速いっていうか」
「え、逆じゃない? みんな普通にやってるし、てかそれただの性格悪い人」
……だから、頭が悪いのは私だけなんだ。
「ていうか、昴夜たちどこ行ったんだろ」
お店の近くにいたはずの桜井くんと雲雀くんはいつの間にか消えている。連絡を取ろうにも桜井くんは携帯電話を持っていない。牧落さんは「もー、だから早くケータイ買ってって言ってるのに」と携帯電話を睨みつけた。ピンク色のそれには携帯電話より大きなクマのぬいぐるみがくっついていた。
「……雲雀くんに連絡すれば出るんじゃない」
「侑生のケー番知らないんだよね。英凜知ってるの?」
「うん。電話かけてみる。……メール来てた」
気が付かなかったけれど、雲雀くんから「エスカレーター横の椅子にいる」と短いメールが来ていた。そういえばエスカレーターの横に椅子が4つ並んでいたな──とフロアに来たときの写真を頭の中で引っ張り出してしまって、目の奥から奇妙な気持ち悪さが押し寄せた。
「そっかー、侑生、英凜にはケー番もメアドも教えてるんだ」
牧落さんが雲雀くんの連絡先を知らない、その前提で、雲雀くんが私に連絡先を教えていることを指摘することの意味を、考える余裕がなかった。
「……なんか流れで」
だから容易には頷けずに誤魔化す。そのくらいのことをする元気はあった。
牧落さんは「そっかー、そっかー」と何度も頷きながら、ショップバッグを体の後ろで持ち直した。
「侑生ねー、あたしには連絡先教えてくれないんだよね。侑生の連絡先分かれば昴夜に連絡とりやすくなるのに」
「……雲雀くんはそういう伝書鳩が面倒なんじゃないかな。蛍さん相手にも断ってたし」
「あ、もちろん侑生にそんなこと言わないよ? 侑生には普通に教えてって言って普通に断られただけ。やっぱり侑生って英凜のことは好みなのかもね」
「それ、今日の雲雀くんに言ったら冗談抜きで殺されるよ」
牧落さんが初めて5組に来たときの写真が脳裏に出てきてしまって、眉間を指で押さえる。でもただ痛いだけでちっともよくはならない。



