「当たり前でしょそんなの。あ、ほらこれとか、かわいーっ!」
いつの間にか目的地に差し掛かって、私達の目の前には「一愛水着」のロゴが掲げられた店舗と鮮やかな彩に満ちたたくさんの水着が現れる。桜井くんがゲッとしかめっ面をするのに対し、牧落さんは恥ずかし気もなく早速水着を手に取った。上下に分かれた赤色の水着で、胸元にハイビスカスが描いてある。
桜井くんと雲雀くんは無言だった。なんなら雲雀くんは携帯電話を取り出してパチパチといじり始めた。
「……侑生、なにしてんの」
「いや俺関係ないなと思って」
「関係あるじゃん! 俺がなんかコメントすんの、これ!?」
「どうって聞いてるじゃん」
「ほら侑生、なんか言って」
「どうでもいい」
「そうじゃないだろ!」
「じゃ昴夜はどうなの」
「……どうでもいいかな」
店の前まで来ただけで勘弁してほしい、そう聞こえてきそうな2人の態度に牧落さんは頬を膨らませる。牧落さんみたいな美少女の我儘を聞いてくれないのは世界広しといえどこの2人だけかもしれない。
「英凜、選ぼ」
「……そうだね」
赤、青、青と白、黒、紺と白、赤とピンクとオレンジ、緑と白……水着は服よりも一層色のバリエーションが多い。ひとつひとつに含まれている色の量が多いせいかもしれない。
ただ、当面の問題は下着と大差ない布面積だ。こんな売り場に2人が来たくないのは仕方がない。実際、桜井くんと雲雀くんは一愛水着の店舗敷地の外、なんなら一愛水着よりも隣の店舗に近いぐらい離れたところで2人でボソボソ話している。牧落さんは私の視線を追った後「もういいよ、あの2人ほっとこ!」と水着に向き直った。
「英凜って何色が好きなの?」
「……青色?」
「なんで疑問形なの」
牧落さんは笑いながら「でも青かー。真っ青って難しいよね。水色とかは? 可愛くない?」と水着を掲げた。ほんのり薄い水色に青い花が描いてある。柄に問題はないけどサイズに問題がある。
「……もう少し布が多いほうがいいんだけど」
「え、こんなもんじゃない? ビキニ着ないの」
「え、牧落さん着るの? これ下着と変わらなくない?」
「でも水着と下着は別だもん。水着は見せるためのものだし」
シルエットを見ると本当に下着と変わらない。相違点を挙げるとすれば、水着の場合は首の後ろや腰のあたりで紐を結んでいるデザインがあり、その立体感が下着にはない程度だ。
こんな水着を現実に着ることができるわけがない。着ることができるのは美しい体を持つ映画女優だけだ。こんなものはフィクションの世界でしか着ることができないものだと思っていたのに、まさか現実に売っているとは、そして着ようとする人がいるとは。
「絶対ビキニのほうがいいよ。あんなこと言ってるけど昴夜も好きだろうし」
「……それは聞きたくなかったけど」
幼馴染から聞く話は信憑性も高い。そんな牧落さんから桜井くんの──日頃男子と意識しない相手の──リアルな好みなんて聞きたくなかった。
「別に昴夜だけじゃなくて男子なんてそんなもんじゃん? 侑生も絶対好き」
「…………」
「蛍先輩だって水着には男のロマンが詰まってるって言ってたし。言ってるか言ってないかの違いでみんな好きなんだから。好みはあるかもだけど。あ、ちなみに昴夜の好きな色はオレンジね」
だから……? 桜井くんがオレンジ色を好きだからといって私がオレンジ色の水着を選ぶ義理はない。桜井くんにはお世話になってるけどそんな義理の返し方は自意識過剰だ。
「……私は青系で」
いつの間にか目的地に差し掛かって、私達の目の前には「一愛水着」のロゴが掲げられた店舗と鮮やかな彩に満ちたたくさんの水着が現れる。桜井くんがゲッとしかめっ面をするのに対し、牧落さんは恥ずかし気もなく早速水着を手に取った。上下に分かれた赤色の水着で、胸元にハイビスカスが描いてある。
桜井くんと雲雀くんは無言だった。なんなら雲雀くんは携帯電話を取り出してパチパチといじり始めた。
「……侑生、なにしてんの」
「いや俺関係ないなと思って」
「関係あるじゃん! 俺がなんかコメントすんの、これ!?」
「どうって聞いてるじゃん」
「ほら侑生、なんか言って」
「どうでもいい」
「そうじゃないだろ!」
「じゃ昴夜はどうなの」
「……どうでもいいかな」
店の前まで来ただけで勘弁してほしい、そう聞こえてきそうな2人の態度に牧落さんは頬を膨らませる。牧落さんみたいな美少女の我儘を聞いてくれないのは世界広しといえどこの2人だけかもしれない。
「英凜、選ぼ」
「……そうだね」
赤、青、青と白、黒、紺と白、赤とピンクとオレンジ、緑と白……水着は服よりも一層色のバリエーションが多い。ひとつひとつに含まれている色の量が多いせいかもしれない。
ただ、当面の問題は下着と大差ない布面積だ。こんな売り場に2人が来たくないのは仕方がない。実際、桜井くんと雲雀くんは一愛水着の店舗敷地の外、なんなら一愛水着よりも隣の店舗に近いぐらい離れたところで2人でボソボソ話している。牧落さんは私の視線を追った後「もういいよ、あの2人ほっとこ!」と水着に向き直った。
「英凜って何色が好きなの?」
「……青色?」
「なんで疑問形なの」
牧落さんは笑いながら「でも青かー。真っ青って難しいよね。水色とかは? 可愛くない?」と水着を掲げた。ほんのり薄い水色に青い花が描いてある。柄に問題はないけどサイズに問題がある。
「……もう少し布が多いほうがいいんだけど」
「え、こんなもんじゃない? ビキニ着ないの」
「え、牧落さん着るの? これ下着と変わらなくない?」
「でも水着と下着は別だもん。水着は見せるためのものだし」
シルエットを見ると本当に下着と変わらない。相違点を挙げるとすれば、水着の場合は首の後ろや腰のあたりで紐を結んでいるデザインがあり、その立体感が下着にはない程度だ。
こんな水着を現実に着ることができるわけがない。着ることができるのは美しい体を持つ映画女優だけだ。こんなものはフィクションの世界でしか着ることができないものだと思っていたのに、まさか現実に売っているとは、そして着ようとする人がいるとは。
「絶対ビキニのほうがいいよ。あんなこと言ってるけど昴夜も好きだろうし」
「……それは聞きたくなかったけど」
幼馴染から聞く話は信憑性も高い。そんな牧落さんから桜井くんの──日頃男子と意識しない相手の──リアルな好みなんて聞きたくなかった。
「別に昴夜だけじゃなくて男子なんてそんなもんじゃん? 侑生も絶対好き」
「…………」
「蛍先輩だって水着には男のロマンが詰まってるって言ってたし。言ってるか言ってないかの違いでみんな好きなんだから。好みはあるかもだけど。あ、ちなみに昴夜の好きな色はオレンジね」
だから……? 桜井くんがオレンジ色を好きだからといって私がオレンジ色の水着を選ぶ義理はない。桜井くんにはお世話になってるけどそんな義理の返し方は自意識過剰だ。
「……私は青系で」



