「いやいや雲雀くん、落ち着いて? さすがに海に全く入らないわけないでしょ? で、それなのに完全にティシャツ短パンだけで来るはずないでしょ? ってことは下はスク水なんだよ」
「で!?」
「で、じゃないでしょ、先輩を敬って。いいの、三国ちゃんがスク水で海に行って」
「だから知らねーよ!」

 能勢さんまで加わり、なにやら3人でゴチャゴチャと喋った後、蛍さんが「ま、そういうことだ」と雲雀くんの肩を叩いた。

「三国も牧落サンと2人は困るだろ。生贄(いけにえ)だお前は」
「すなわち死じゃないですか」
「……そもそも私は水着が要らな――」
「テメェは水着を買え!!」
「イッ……!」

 コソッと口を出したら怒鳴られたしハリセンでぶん殴られた。思わず頭を押さえてしまうほどの強打だった。

「ティシャツと短パンの何がそんなに悪……!」
「三国、いいか、世の中勉強以外に大事なことなんていくらでもあるんだぞ」

 呆然と蛍さんを見上げるも、その目つきの鋭さには私でさえ察知してしまうほど、有無を言わせぬ怖さがあった。

「スク水しか持ってません、だから海はシャツと短パンですなんて言わせねぇ。水着には男のロマンが詰まってんだよ」

 なんかそれで私が怒られるの違うくないですか? そう言いたいのはやまやまだったけれど、後ろの能勢さんと九十三先輩が、なんなら桜井くんまで深々と頷いているので私が間違っているのかもしれない。

「……はい……すみません……」

 その場では頷くしかなかったけれど、牧落さんに半ば無理矢理決められた土曜日を迎えて、頷かなければよかったと後悔した。