ぼくらは群青を探している

「じゃあパティプリ行ってくれなかったことはいいよ。この間一緒に帰ろうって言ったのにすっぽかしたのは?」
「勉強会の後に一緒に帰ったじゃん!」
「4時に帰るのと6時に帰るのとじゃ全然ちがいますーう」

 牧落さんが譲る気配はないので、桜井くんが折れるしか収拾(しゅうしゅう)をつける方法はないのでは……とそっと蛍さんの様子を窺うと、まるで頭痛でもしているかのようにこめかみを押さえて目を(つむ)っていた。

「……桜井、うるせーから行ってやれ」
「なんで!?」

 どこか諦めたような疲れた声に、桜井くんは丸い目と口を大きく開いた。懐いてる蛍さんに言われては断りようがないに違いない。

「だって牧落サンは行きてーんだろ。女子の頼みは聞いとけ」
「自分は聞かないからフラれたくせに!」
「フラれてねぇつってんだろ!」
「ほらー、蛍先輩もそう言ってることだし。あ、侑生も来ていいよ」
「昴夜1人で行って」
「無理無理! お願い侑生、一生のお願い! 水着売り場に1人で行かされるとかマジで無理!!」

 まるで(すが)り付くように、というか現に雲雀くんのシャツを(つか)んで縋り付きながら桜井くんは喚く。そんなにイヤがるなら助け舟でも……とは思うけれど、やはり牧落さんの前でそんなことは言えない。

「知らねーよ、お前が牧落とした約束が問題なんだろ。俺関係なくね」
「俺達西の死二神なんて呼ばれた仲じゃん!」
「関係ねーだろ、大体字面考えてみろ。死神が水着売り場行ってどーすんだ」

 雲雀くんの妙な方向からのツッコミで、頭の中ではふわふわと謎のイメージが湧く。女子高生がキャッキャと騒ぐ水着売り場で、マントを被って鎌を(たずさ)えた死神がコソコソと様子を(うかが)う……だいぶ間抜けだ。

 桜井くんがギャンギャンと一方的に雲雀くんに喚き散らす中、パンパンッと蛍さんがハリセンで机を叩いた。

「うるせーよ。もうどうでもいいからお前ら2人揃って行け」
「収拾のつけかたおかしくないですか!?」

 クールな雲雀くんも乱暴なまとめ方には声を荒らげずにはいられない。でも良い言い方をすれば蛍さんは女の子に優しいだけ……? ただそれが雲雀くんにとって迷惑なことには変わりない。

「蛍さん、牧落のこと甘やかしすぎですからね? コイツが勉強会に来てることから意味分かんねーのに俺と昴夜に牧落と一緒に水着買え? 嫌がらせじゃないですか」
「……そこまで言う?」

 牧落さんが(まゆ)(しり)を下げて露骨(ろこつ)に悲しそうな顔をした。雲雀くんは至極(しごく)真っ当なことを言ってると思うのだけれど、牧落さんが傷ついたというのなら仕方ない、そういうものだ。

 蛍さんもそれを懸念(けねん)していたのだろう、ぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜて雲雀くんの前に膝を立てて座り込む。

「仕方ねーだろ、牧落サンが言うんだから。桜井の幼馴染みたってお前も昔から知ってんだろ?」
「で?」
「で、じゃねーよ、先輩を敬え。確かに牧落サンが言ってんのはただの我儘(わがまま)だけどな」

 後半から蛍さんは声を潜めた。牧落さんには聞こえてないだろう。

「お前だって三国に水着を買わせる必要は分かってんだろ」
「分かってません。アンタが三国の水着見たかろうが見たくまいが俺には関係ないです」
「お前は三国がスク水で海に来て責任取れんのか」
「取りたくねーよそんな責任!」