九十三先輩は、脳味噌を掻き毟りたいかのようにアッシュの髪をぐしゃぐしゃっと掻き混ぜた。ここまで欲望に忠実に嘆かれると下心の嫌らしさがない。
そんな下心に日々忠実な九十三先輩はさておき「……三国ちゃん、女子高生が海でティシャツ短パンはマジでないよ」能勢さんがいつもの笑顔を硬直させていた。
「……でもスクール水着と違って着てる人はいますよね?」
もちろん圧倒的に水着の人が多いには違いないけれど、ティシャツを着ている人だって見かけるのだから、“マジでない”なんて言われる筋合いはない。
「いる……けどねぇ……。どう思います、永人さん」
「……俺はなんも言わねーぞ」
でも蛍さんの足は小刻みに揺れているのできっと苛立っている。どうしても……水着を着ろと……?
「……スクール水着を着るのが変だということくらい分かります。着たくないです」
「スク水着ろなんて言ってねーだろ! どこのマニアだ!!」
返事を間違えてしまったせいで怒鳴られた。多分本気で怒鳴られたのだと思う、そのボリュームには思わず身を竦ませてしまったし、他の群青メンバーも何事かと振り向いた。
そんな中で、牧落さんが悲しそうというか切なそうというか、なんとも分からない顔をする。
「……英凜、水着買いに行こ?」
そのセリフから考えれば、きっとその顔は哀れみとか同情に近い気がした。
「……買いに行く……?」
「そうしなよ、三国ちゃん。悪いことは言わないから」
「……悪いことって」
能勢さんも、まるで宥めるか言い含めるかするかのような口調だったし、現に肩を軽く叩かれた。でも買い物……しかも水着か……。考え込んでしまったのを牧落さんはなにか勘違いしたのか「あ、大丈夫、昴夜も行くし!」とよく分からないフォローをされた。白羽の矢が立った桜井くんは「え、俺?」と困惑した顔をする。犬ならきっとピンと耳が立っていたところだ。
「行くでしょ?」
でも牧落さんは有無を言わさぬ口調だ。
「ヤダよ?」そして桜井くんは頑なに首を横に振り「水着買いに行くのついて行くとか普通に恥ずかしいじゃん」
「でも私と2人だと英凜が気まずいんでしょ」
フォローの意味が分かった。でもそのフォローに使われた桜井くんは今までになく――いや、しいて同等の表情を挙げるとすれば、もう一度ラブホに行くと言われたときと同じくらいイヤそうな顔をしている。
「……マジで言ってんの? 彼女でも一緒に水着買いに行くなんて恥ずかしいからね? ぜってーヤダ」
「昴夜、そうやってこの間も行ってくれなかったじゃん」
「この間ってどれ」
「パティスリー・プリティに行こうっていったとき」
「いやだから? それ、胡桃が勝手に行きたいって言って俺がイヤだって言っただけじゃん。なんで断った俺が悪いみたいに言ってんの?」
パティスリー・プリティ……? 芸名か何かなのかなとでも言いたくなるほど奇天烈なお菓子メーカーの名前に眉を顰めていると、能勢さんが「ああ、あれね」なんて頷いた。
「……女子の中で流行ってるんですか?」
「三国ちゃん、自分も女子でしょ。一色駅の東口から隣の駅に行く途中くらいのところにある少女趣味なカフェなんだけど、スイーツが小物みたいに可愛いからホワイトデーのお返しとかに人気ってわけ」
そんな下心に日々忠実な九十三先輩はさておき「……三国ちゃん、女子高生が海でティシャツ短パンはマジでないよ」能勢さんがいつもの笑顔を硬直させていた。
「……でもスクール水着と違って着てる人はいますよね?」
もちろん圧倒的に水着の人が多いには違いないけれど、ティシャツを着ている人だって見かけるのだから、“マジでない”なんて言われる筋合いはない。
「いる……けどねぇ……。どう思います、永人さん」
「……俺はなんも言わねーぞ」
でも蛍さんの足は小刻みに揺れているのできっと苛立っている。どうしても……水着を着ろと……?
「……スクール水着を着るのが変だということくらい分かります。着たくないです」
「スク水着ろなんて言ってねーだろ! どこのマニアだ!!」
返事を間違えてしまったせいで怒鳴られた。多分本気で怒鳴られたのだと思う、そのボリュームには思わず身を竦ませてしまったし、他の群青メンバーも何事かと振り向いた。
そんな中で、牧落さんが悲しそうというか切なそうというか、なんとも分からない顔をする。
「……英凜、水着買いに行こ?」
そのセリフから考えれば、きっとその顔は哀れみとか同情に近い気がした。
「……買いに行く……?」
「そうしなよ、三国ちゃん。悪いことは言わないから」
「……悪いことって」
能勢さんも、まるで宥めるか言い含めるかするかのような口調だったし、現に肩を軽く叩かれた。でも買い物……しかも水着か……。考え込んでしまったのを牧落さんはなにか勘違いしたのか「あ、大丈夫、昴夜も行くし!」とよく分からないフォローをされた。白羽の矢が立った桜井くんは「え、俺?」と困惑した顔をする。犬ならきっとピンと耳が立っていたところだ。
「行くでしょ?」
でも牧落さんは有無を言わさぬ口調だ。
「ヤダよ?」そして桜井くんは頑なに首を横に振り「水着買いに行くのついて行くとか普通に恥ずかしいじゃん」
「でも私と2人だと英凜が気まずいんでしょ」
フォローの意味が分かった。でもそのフォローに使われた桜井くんは今までになく――いや、しいて同等の表情を挙げるとすれば、もう一度ラブホに行くと言われたときと同じくらいイヤそうな顔をしている。
「……マジで言ってんの? 彼女でも一緒に水着買いに行くなんて恥ずかしいからね? ぜってーヤダ」
「昴夜、そうやってこの間も行ってくれなかったじゃん」
「この間ってどれ」
「パティスリー・プリティに行こうっていったとき」
「いやだから? それ、胡桃が勝手に行きたいって言って俺がイヤだって言っただけじゃん。なんで断った俺が悪いみたいに言ってんの?」
パティスリー・プリティ……? 芸名か何かなのかなとでも言いたくなるほど奇天烈なお菓子メーカーの名前に眉を顰めていると、能勢さんが「ああ、あれね」なんて頷いた。
「……女子の中で流行ってるんですか?」
「三国ちゃん、自分も女子でしょ。一色駅の東口から隣の駅に行く途中くらいのところにある少女趣味なカフェなんだけど、スイーツが小物みたいに可愛いからホワイトデーのお返しとかに人気ってわけ」



