「有能。窓閉めたほうがいんじゃね、降り込むだろ」
窓辺に歩み寄ってきた蛍さんはしかめっ面で窓の外に顔を出して天気の様子を伺う。その少し離れたところで能勢さんは「そんなに強くないから大丈夫ですよ」と微笑んだ。
「なんだ三国、俺の顔に何かついてるか?」
いつの間にか、蛍さんの横顔を見てしまっていたらしい。怪訝な顔が振り向くので「いえ……」小さく返事をして顔を背けた。
何年も会ってない妹と重ねてる……? それにしたって、なにか引っ掛かる。ただ何に引っ掛かっているのか、考えても上手く頭が回らなかった。
「さーてと、ヤマセンに勉強するつったし、始めっか」蛍さんはまたハリセンを取り出して「ほーら6組にいたときと同じように散れ」
「蛍せんぱーい、あたしはー?」
ここから合流する牧落さんが手を挙げれば、蛍さんが返事をする前に「数学! 数学!」「いや数学三国ちゃんいんじゃん、英語だろ」「いや英語は俺がいるので要らないです」「オメーは女なのは顔だけだイッテ! お前先輩を踏むんじゃねーよ!」と先輩達が我のところへと手を挙げた。でも蛍さんは無視だ。
「……牧落サン、成績いんだろ。得意科目教えてやれ」
「んー、じゃあ数学?」
「数学に胡桃ちゃんも三国ちゃんもいるのはおかしいだろ!」
先輩達からの抗議をやはり蛍さんは無視して「ん、じゃあ牧落サンそっち」と牧落さんを追いやった。既に数学組の中に座っていた私と桜井くんのその隣に牧落さんは座り込む。
「よろしくね、英凜」
「……よろしく?」
よろしくされるのは私ではない……と考えてしまったせいで首を捻ったけれど「よろしくねー、胡桃ちゃん!」と当の先輩達は嬉しそうなのでよしとする。ただ。桜井くんはどこか困ったような顔をして私を見た。何に困っているのか分からなかったけれど……合理的に考えて、先輩達のいうとおり、ここに私と桜井くんと牧落さんが揃っている意味はないから、きっとそのことだろう。
「……じゃあ私は英語に移りますかね……」
牧落さんも桜井くんの隣から離れるのは不安だろうし、と立ち上がった。途端に「ちょっと待ってそういうのナシじゃない!?」と先輩が叫ぶけれど「いーよいーよ三国ちゃんこっちおいで!」九十三先輩がすかさず手招きして「雲雀くん怖いから! マジ綴りミスっただけで『なんだこのバカ』って目で見てくるから!」
「え、でも俺数学は教えらんないんだけど?」
桜井くんが困った顔のまま自分を指さす。さっきの困り顔を読み間違えてしまったのか、それとも桜井くんは何も考えていなかったのか。ただ、桜井くんはもともと番犬しかしていないので問題はない。それに、誰がどう見たって番犬が必要なのは私よりも牧落さんだ。
「……牧落さんの番犬してあげたほうがいいんじゃ」
「ていうか、あたしのこと胡桃でいいって言ってるのに」
いそいそと自分の荷物を片付けていると牧落さんは桜井くんの隣で両肘を膝につき、手の中で頬を膨らませる。たったそれだけの仕草でも可愛いのだから、本当に牧落さんはどの場面でどの角度から見ても美少女だ。
「……えっと」
「てか俺のこと昴夜って呼ぶのが先じゃね?」
桜井くんが口を挟む場面ではないのだけれど、それはそうかもしれない。友情の期間と深度に相関関係があるとは思わないけれど、少なくとも私と牧落さんの関係に桜井くんほどの時間も密度もない。
「……それは追々」
「オイオイっていつ?」
「……追々は追々」
窓辺に歩み寄ってきた蛍さんはしかめっ面で窓の外に顔を出して天気の様子を伺う。その少し離れたところで能勢さんは「そんなに強くないから大丈夫ですよ」と微笑んだ。
「なんだ三国、俺の顔に何かついてるか?」
いつの間にか、蛍さんの横顔を見てしまっていたらしい。怪訝な顔が振り向くので「いえ……」小さく返事をして顔を背けた。
何年も会ってない妹と重ねてる……? それにしたって、なにか引っ掛かる。ただ何に引っ掛かっているのか、考えても上手く頭が回らなかった。
「さーてと、ヤマセンに勉強するつったし、始めっか」蛍さんはまたハリセンを取り出して「ほーら6組にいたときと同じように散れ」
「蛍せんぱーい、あたしはー?」
ここから合流する牧落さんが手を挙げれば、蛍さんが返事をする前に「数学! 数学!」「いや数学三国ちゃんいんじゃん、英語だろ」「いや英語は俺がいるので要らないです」「オメーは女なのは顔だけだイッテ! お前先輩を踏むんじゃねーよ!」と先輩達が我のところへと手を挙げた。でも蛍さんは無視だ。
「……牧落サン、成績いんだろ。得意科目教えてやれ」
「んー、じゃあ数学?」
「数学に胡桃ちゃんも三国ちゃんもいるのはおかしいだろ!」
先輩達からの抗議をやはり蛍さんは無視して「ん、じゃあ牧落サンそっち」と牧落さんを追いやった。既に数学組の中に座っていた私と桜井くんのその隣に牧落さんは座り込む。
「よろしくね、英凜」
「……よろしく?」
よろしくされるのは私ではない……と考えてしまったせいで首を捻ったけれど「よろしくねー、胡桃ちゃん!」と当の先輩達は嬉しそうなのでよしとする。ただ。桜井くんはどこか困ったような顔をして私を見た。何に困っているのか分からなかったけれど……合理的に考えて、先輩達のいうとおり、ここに私と桜井くんと牧落さんが揃っている意味はないから、きっとそのことだろう。
「……じゃあ私は英語に移りますかね……」
牧落さんも桜井くんの隣から離れるのは不安だろうし、と立ち上がった。途端に「ちょっと待ってそういうのナシじゃない!?」と先輩が叫ぶけれど「いーよいーよ三国ちゃんこっちおいで!」九十三先輩がすかさず手招きして「雲雀くん怖いから! マジ綴りミスっただけで『なんだこのバカ』って目で見てくるから!」
「え、でも俺数学は教えらんないんだけど?」
桜井くんが困った顔のまま自分を指さす。さっきの困り顔を読み間違えてしまったのか、それとも桜井くんは何も考えていなかったのか。ただ、桜井くんはもともと番犬しかしていないので問題はない。それに、誰がどう見たって番犬が必要なのは私よりも牧落さんだ。
「……牧落さんの番犬してあげたほうがいいんじゃ」
「ていうか、あたしのこと胡桃でいいって言ってるのに」
いそいそと自分の荷物を片付けていると牧落さんは桜井くんの隣で両肘を膝につき、手の中で頬を膨らませる。たったそれだけの仕草でも可愛いのだから、本当に牧落さんはどの場面でどの角度から見ても美少女だ。
「……えっと」
「てか俺のこと昴夜って呼ぶのが先じゃね?」
桜井くんが口を挟む場面ではないのだけれど、それはそうかもしれない。友情の期間と深度に相関関係があるとは思わないけれど、少なくとも私と牧落さんの関係に桜井くんほどの時間も密度もない。
「……それは追々」
「オイオイっていつ?」
「……追々は追々」



