だからフォローしたのだけれど、桜井くんはムッと眉間に皺を寄せた。むむ……と少し考えこみ「……三国が気にしないならいいけどなんか気になる、俺が気にする」とそのまま腕を組んで考え込む。いつもの桜井くんなので気にする必要はないだろう。

「そんなことより、私達の計画が狂ったほうが問題だと思う。っていっても、もともとスケジュールは厳しかったし、2日やそこら張っただけで本命に当たるかどうかなんて元から希望的観測込みの話だったから狂ったってほどのことじゃないかもしれないけど」
「待って、いまなんか現代文の教科書読まされた気がした。もう少し分かりやすく言い直して」
「要はこの人達は関係がないから時間を取られるだけ無駄だよねって話」
「そうでもねえよ、三国」

 おもむろに、雲雀くんは土下座をしている1人の肩に足を乗せた。隣に立っている私がその乱暴な足に硬直するのにも構わず、なんなら雲雀くんはまるで脅迫を楽しむように口角を吊り上げてみせた。

「お前ら、最近始めたんだろ? 昴夜にちょっと胸座掴まれてビビり倒すくらいのヤツが何回も美人局成功してるわけねーからなあ」

 そのまま雲雀くんの足は相手の肩をグラグラと揺らす。桜井くんだけならともかく、雲雀くんまでが出てくると悪鬼と羅刹に挟まれているのに等しいのだろう。途端に男子2人が揃って震え始めた。

「いや……あの……」
「誰に入れ知恵されたんだって聞いてんだよ。つか学生証出せ」

 まるで恐喝のごとく、雲雀くんは3人から学生証を取り上げる。さっきまで緊張感のなかった女子も急に顔を強張らせた。

 雲雀くんと桜井くんは学生証を見ながら「どこ、これ」「黒檀(こくたん)高校だな」「ああ、なるほどね」なんて話している。

「で、林」

 生徒証で名前を確認した結果、雲雀くんは最初に肩を足で押さえた相手の名前を呼んだ。私も横から名前と顔を確認した──2年3組12番林雄也、2年1組1番|仁川(にがわ)拓それから2年1組15番川瀬真未。……桜井くんと雲雀くん、2年生相手に敬語を遣わせてたのか。

「お前が考えたことか? これ」
「い、いや、違うくて……」
「……仁川、お前こっち」

 怯える林くんの隣にいる仁川くんに向かって、桜井くんが親指で合図した。同じく(おび)えている仁川くんがおそるおそる立ち上がるやいなや、桜井くんはその胸座を掴んで引きずるようにして私達の視界から消えた。

 次に聞こえてきたのは、言語化できない打撃音だった。

「仁川は昴夜が吐かせてんだろ。分かったら俺に何回も言わせてんじゃねーよ」

 すっかり縮み上がった林くんはゴッと肩を蹴られ、そのままアスファルトの上に転んだ。傍にいる私のほうがヒッと思わず息を()んだ。

「いま俺達に殴られるのと、後からその入れ知恵したヤツに殴られるのとどっちがいい」
「……今津(いまづ)です」

 結果、林くんはすぐに白状した。

「同じ2年3組の今津に教えてもらいました……小遣い稼ぎにいいって」
(スノウ・)(ホワイト)にいる今津か?」
「その今津です。今津に勧められました」

 林くんと川瀬さんは事の顛末(てんまつ)というか、その今津に授けられたという知恵について(つぶさ)に語った。雲雀くんはたまに相槌を打ちつつ情報を引き出し、聞き終えた頃に桜井くんが仁川を引きずって帰ってきた。仁川は暗がりで見ても分かるくらい顔面|蒼白(そうはく)で、見ているこっちが顔を青くしてしまいそうだった。

「終わった?」