ぼくらは群青を探している

 ──しまったブラフだった。小さく開いた唇の隙間からそっと息を吸い込み、息を止めて、雲雀くんを見据(みす)える。雲雀くんは足を投げ出して腕を組んでいた。その表情は今まで見たことがないものだったから、その感情までは分からない。

「……なんで分かったの」
「……昨日のお前、(おび)え方が異常だった。怖いのは当然だとは思ったけど、ラブホまで来て建物の欠陥がどうだこうだ言ってるヤツがたったあれだけでそこまでの危機感抱くわけがない」

 テーブルの下、膝の上で、何度も手を握って、開いて、握りなおす。まるで叱られている子供になった気分だった。いや……もしかしたら叱られているのかもしれないけれど、そこは分からない。私には雲雀くんがどんな感情を抱いてそんなことを確認したのか、分からない。

「そうじゃなくても、新庄なら最後までやってておかしくない。10分もあればどうにかなるしな」

 ……それは、あまり聞きたくない話だった。あの瞬間がどれだけ危険だったか、知らないふりをして、何も考えずに2人と緩く仲良くしていたい私にとって、それは知りたくない現実だった。

「そう……」
「あと、お前の横にあった煙草はどう考えても不自然だった」

 雲雀くんの声は少し荒々しく、苛立っていた。それを加味すると、雲雀くんのいまの感情に近いのは怒りかもしれない。

 ただ、私の横にあった煙草とは……。なんのことだったか少し考え込んで、新庄が私に馬乗りになりながら床で煙草を揉み消したことを思い出した。

「あ……」
「あんなところに煙草捨てやしねーんだよ、ご丁寧にテーブルの上に灰皿あって、そこに吸い殻入ってたんだからな。足で潰すなら分かるけど、どう見たって手で潰した跡だった。でもって誰かが踏んだ跡もないってことは真新しい。……新庄がお前の上に乗っかって、脅し代わりに煙草押し付けたって考えるだろ、そんなの」

 あまりにも適切な指摘に何も言えなかった。……そっか、桜井くんに気付かれなかったのは、運が良かったのか。

 そっと雲雀くんの表情を観察した。雲雀くんが怒っているように見えるし、聞こえるけれど、そうだとしたら怒っている理由が分からなかったから、どう返事をするのが正解なのか分からなかった。

「……まあ新庄じゃないのかもしれねーけどな。吸い殻、2種類あったし。でもあの時にお前が何かされたのは間違いないだろ」

 ただ、ブラフにかかったのは私だ。誤魔化せはしない、諦めてもう少し息を吸った。拍子に何度か瞬きをして、目を真っ直ぐみることができないのを誤魔化した。

「……間違いない、です。で、相手は、新庄……」
「なんで言わなかった」

 唸るような声に肩が震えた。まるで牙を()いた狼に威嚇(いかく)されているみたいだった。

「……言って、どうにかなることじゃない」
「だからって隠した理由はなんだよ」

 下手にバレたら、2人がもう関わってくれなくなるんじゃないかと思って──そんな正直な気持ちは言葉にできずに口を(つぐ)んだ。それは黙っていたのを2人のせいにするようでイヤだった。

「……蛍さんを呼んだ後だったから、群青を巻き込むような大事にはしたくなかったし……それに、わざわざ言いたいことでもなかったから……」

 それも嘘ではなかった。理由の優先順位としては下だけれど、その理由があったのも本当だった。

 それが雲雀くんに何の効果があったのか、その表情の厳しさが少し緩まった。剥かれていた牙がスススと収められていくようだ。

「……聞いて悪かったな」