ぼくらは群青を探している

「……周りが鬱陶しい?」
「……俺と昴夜は中学のときからこんなだから、俺らの素行の悪さみたいなのって大体みんな知ってんだよ」

 雲雀くんの手を離れたプラスチックカップはガラッと音を立てた。雲雀くんはストローを摘まんで氷の隙間を通し、残る液体を飲むための微調整をしている。

「そういうヤツらの中にいると目立つだろ。目立てばコソコソ陰で言うやつも出てくるし、特別科にいると先公もちゃんとしろって言い出すし。普通科だったら俺らみたいなのがいても目立たないし、なんか言われるって言っても“あの桜井と雲雀”って言われるくらいで済むし、先公も普通科のことは集金袋くらいにしか思ってねーから関わってこないだろうし。いいことづくめだろ」

 集金袋という言い方は悪かったけれど、的を射てはいた。結局、学校側が特別科と普通科を選り分けて、そして掃きだめにも等しい普通科を残しているのは、私立高校にとって生徒数が大事だからだ。

 でも、灰桜高校普通科なんて言ったらそれはそれで別のレッテルは貼られるのに、それを厭わないほど特別科の環境は鬱陶しいものだろうか。

「別に、灰桜高校なんてここら辺で有名なだけで、全国なら知ってるヤツなんていねーだろ」

 そんな私の考えを読み取ったかのように、雲雀くんは残るカフェラテを(すす)った。きっと氷が溶けて半分以上が冷水だったのだろう、その眉は若干寄って不愉快そうになる。

「大学は地元(ここ)出るから、灰桜高校普通科にいたなんてどうでもいいだろ。学校が作る書類だって、進学実績のためなら悪いこと書きやしねーよ。それでもダメだったらそん時はそん時だ。少なくとも俺は特別科で息苦しい3年間はごめんだなって思った」

 ふんっと小馬鹿にしたように言い放つ雲雀くんに、目から(うろこ)が落ちた。いや、それは過言かもしれないけれど、少なくとも大人の打算を織り込んで自分の環境を整えるなんて、雲雀くんがそんなことを考えて普通科を選んでいたなんて思いもしなかった。

「……もしかして桜井くんも同じ理由?」
「いやアイツは学力的に他が無理だっただけ」

 ……やはり安心と信頼の桜井くんだ。良くも悪くも裏切ることはない。

「まあ知ったヤツがいるほうがいいみたいなのは思ってたんだろうけどな」
「……仲良しだよねえ」
「お陰でホモだのなんだの言われて余計に喧嘩増えたけどな」

 その喧嘩を買ってしまうのは仕方がない。なんなら売る側の計画的自傷行為まである。

「……つか、俺は三国に聞きたいことあったんだけど」
「ん」
「お前、新庄になんかされただろ」

 ガシャガシャッ、と、私の手から滑り落ちたカップがテーブルに着地し、中に入っている氷がぶつかり合って大きな音を立てた。幸いにもカップは倒れなかった。

 カップについていた水滴は、パタパタパタッとまるで私の冷や汗のようにテーブルに零れ落ちる。

「……え、っと……?」

 飲み物を飲んだばかりなのに喉がカラカラに渇いていた。狼狽を誤魔化すために横髪を耳にかける動作で間を持たせようとして、その動作にこそ狼狽を裏付けられてしまうことに気付いて、髪に触れた手はそのまま何もせずに膝に戻った。

 なんで雲雀くんが知ってるんだ。桜井くんは知らないままだ。そしてきっとそれを信じたままだ。桜井くんから聞くはずがない。荒神くんから聞いた?

「その反応するってことはなんかされたな」