ぼくらは群青を探している

「……桜井くん、ああは言ってたけど、怪しまれてないね」
「まあ。アイツ元来人懐こいし」
「……あと、その、気になってたんだけど、中津くんって、こう、どこまで手を出してたの……?」

 雲雀くんの横顔が引きつった。答えにくい質問に困っている顔だ、これは。

「……なんでそんなこと聞く」
「……どのタイミングであの2人組出てくるのかなと思って。桜井くんがある程度どうにか……触るとかなんとかしないと出てこないのかなって」
「ああ、まあそれは昴夜と少し話したけど」

 横顔に見えていた緊張のようなものが少し解けた。多分、中津くんの話それ自体をする必要がなくなったからだ。

「中津に聞いた感じ、部屋の中で合図してる感じはなかった。多分どの部屋に入ったかまでの連絡しかできてないはず。連絡が来てから何分って決めて行ってるんだろうな」

 つまり……時間さえ稼げば証拠の動画は撮られずに済む。そう考えたのが伝わったのか、雲雀くんは頷いた。

「昴夜とは女から目を離さないこととできるだけ何もしないで時間稼ぐことは話してある。上手くやればこっちだけ動画が手に入って終わる」
「……上手くやりたいね」
「ま、問題はそんなに上手くいくかだけどな」

 不意に、前方を歩いていた女の子が桜井くんに縋り付くようにして腕を組んだ。桜井くんは特に驚いた様子はなく、その力に引っ張られるようにして方向転換する。

「ground-0に行く道だな」
「あ、そっかここから入れるんだ」
「まあ確定だよな。15分くらい待てばドクターコーヒーにいたヤツらが出てくるだろ」

 俺達の役目はここまで、そんな口ぶりにほっと胸を撫で下ろした自分がいた。桜井くんが前面に出るから……と言い聞かせることでどこか安心していたらしい。我ながら他力本願で恥ずかしい。

「ドクターコーヒーからground-0に行く道ってここが最短ルートってわけじゃないよね? って言ってもground-0の前に立ってるわけにも行かないけど……」
「部屋では金払えって脅されるだけだから昴夜も1人で平気だろ。別にホテルの前で待機しなくていいし、むしろあの2人組と鉢合わせしないようにしたほうがいい」
「……確かに」

 雲雀くんの冷静な指摘にはただただ頷くしかなかった。どうやら私は現場判断に弱いらしい。

「……じゃあここで待っとく?」
「それでいいと思う」

 沈黙が落ちた。ホテルground-0がある通りから2つ離れた大通りで、近くにラブホがあるとか関係ありませんなんて顔で立っているチューリーズコーヒーの前で、私達はただぼんやりと立ち尽くす。人通りが段々と増えてきていることもあって、高校生が2人でチューリーズコーヒーの前に立っていても気に留める人はいない。

「……コーヒーでも飲む?」
「……昴夜が怒りそうだけどな」

 と言いつつもその足はお店に向いた。結果、私と雲雀くんはテラス席が空いているのをいいことに悠々とアイスカフェオレを飲みながら桜井くんの任務遂行を待つことになった。向かい側に座る雲雀くんは、やはりこうしていると“ありふれた”高校生に見える。

「……雲雀くんが普通科に入った理由はなんだったの?」
「……急だな」
「ごめん、なんか今日は髪が黒いからあんまり普通科の男子っぽくないなと思って、そこから連想ゲーム」

 雲雀くんは無言でストローを(くわ)えた。一応、その目はホテルground-0がある通りの入口から離れていないままだ。

「……特別科に入ったら、なんか周りが鬱陶(うっとう)しそうじゃね」