スプリング・バック

「ロンドン支社。行きたがっていただろう、ずっと。四月から、どうだ」





 パシャリと、冷たい水が顔に広がる。目尻を、頬を、顎を伝って、ひたひたと洗面台には水滴が零れる。鏡に映る自分の顔を見て、思わず口の端から笑みが零れた。

「……酷い顔」

 二月。暖冬とはいえ寒いことには変わりない。凍るような冷水で無理矢理頭を起こした後、手早く朝の支度を済ませ、ショートブーツを履いて外に出た。

 ほろほろと、大粒の雪が降る。フードを被った頭に雪が積もる。ぎゅ、ぎゅ、と雪に足が沈み込む。マンション前は駐車場を除いて除雪が不十分で、足がどこまでも沈んでしまいそうになる。ただ凍結しているわけではないこの季節はまだマシだ。三月になって日中の気温が上がると、昼の間に溶けて、夜の間にそれが凍って、朝になると自然のスケートリンクが出来上がってしまう。挙句、溶けた雪が跳ねれば服も汚れる。

 そう考えれば、しっかりとただ雪が積もるだけのこの季節は恵まれている。氷点下の寒さも、慣れてしまえば本州の寒さと大差ない。マフラーに顔を埋めながら、腰まで積まれた雪の横を、職場まで歩いた。