人生のどん底というのは、こういうことを言うのだろう。
借金が膨らみ、返す当てもなく、女房にも逃げられ、子供にも会えなくなった。
特に趣味らしいものもないのに、辛い仕事だけはある。
買ってきたロープを、鴨居に吊るす。
……もういいよな。
「ちょ、ちょ、ちょっと! なに死のうとしてんの?」
突如現れた訪問者に、ロープへの道をふさがれた。
『羽と小さな髭を生やした太っちょ』という風貌。
一体、どこから現れた?
「それはあなたの体じゃないの。借り物なんだから、勝手に死んだらダメ」
しばしの思考停止。
そして、徐々に理解が進み出す。
ひょっとして、他人の人生を歩んでいたのか?
この地獄は、自分のものではなく、他人のものということか。
男は、希望の光を見る思いだった。
「本来はあと3年あったけど、こういうことするなら、元に戻すね」
「……ああ、頼む!」
そうして戻った世界は、真っ白な空間だった。
自分の体も見えない。
時間もわからない。
他に誰もいない、ただ風の音だけがする世界。
そして、戻った記憶。
ここでは、死すら許されない。
……そうだ、俺はこの無の空間がたまらなくて、人の人生を借りたのだった。
この無の空間からすれば、あの人生は遥かに……。
不意に、羽の生えた太っちょの声が聞こえる。
「一応、あなたにも報告しておくわね。あなたが借りてた人生の持ち主、あなたと同じ決断をしたわ。結局、同じだったわね。うん、それだけ」
それだけ言うと、太っちょの気配はすぐに消えた。
……バカな奴だ、本当に。
死のうとした自分と借り主の姿が重なり、涙が止まらなかった。
借金が膨らみ、返す当てもなく、女房にも逃げられ、子供にも会えなくなった。
特に趣味らしいものもないのに、辛い仕事だけはある。
買ってきたロープを、鴨居に吊るす。
……もういいよな。
「ちょ、ちょ、ちょっと! なに死のうとしてんの?」
突如現れた訪問者に、ロープへの道をふさがれた。
『羽と小さな髭を生やした太っちょ』という風貌。
一体、どこから現れた?
「それはあなたの体じゃないの。借り物なんだから、勝手に死んだらダメ」
しばしの思考停止。
そして、徐々に理解が進み出す。
ひょっとして、他人の人生を歩んでいたのか?
この地獄は、自分のものではなく、他人のものということか。
男は、希望の光を見る思いだった。
「本来はあと3年あったけど、こういうことするなら、元に戻すね」
「……ああ、頼む!」
そうして戻った世界は、真っ白な空間だった。
自分の体も見えない。
時間もわからない。
他に誰もいない、ただ風の音だけがする世界。
そして、戻った記憶。
ここでは、死すら許されない。
……そうだ、俺はこの無の空間がたまらなくて、人の人生を借りたのだった。
この無の空間からすれば、あの人生は遥かに……。
不意に、羽の生えた太っちょの声が聞こえる。
「一応、あなたにも報告しておくわね。あなたが借りてた人生の持ち主、あなたと同じ決断をしたわ。結局、同じだったわね。うん、それだけ」
それだけ言うと、太っちょの気配はすぐに消えた。
……バカな奴だ、本当に。
死のうとした自分と借り主の姿が重なり、涙が止まらなかった。

