真夏の観測者たち

 
 意識不明の重体。
 それってどういう状態なんだろう。
 遠野くんは助かるのだろうか。

 ついさっきまで、私の話を真剣に聞いてくれていた遠野くん。あんなに優しい彼が、どうしてこんな目に遭わなければいけないんだろう。
 彼にもしものことがあったら、私は一体どうしたらいいんだろう。

「ねえ、ラビ。私、どうしたらいいのかな……?」

 問いかけても、もちろん返答はなかった。
 私が青い顔をしているのに気づいて、お母さんが「どうかしたの。大丈夫?」と尋ねてくる。

 テレビのニュースは次の話題に移って、有名な野球選手のホームランを讃えていた。キャスターの声も和やかになり、BGMも陽気なものに変わっている。
 遠野くんが事故に遭ったことなんて、まるで些細なことなのだと言われている気がした。

 事故発生から時間だけが刻々と過ぎていく中で、私にできることは何もなかった。


          ◯


 時計の針が、深夜零時を指そうとした頃。
 ネットのニュースで、男子高校生の死亡が発表された。

「そんな……」

 信じられない結果に、私の頭は真っ白になる。

 遠野くんが亡くなった。
 あんなに強くて優しい彼が。

 スマホを持つ手が小刻みに震えて、勝手に涙が溢れてくる。

 布団にくるまって、私は声を殺して泣いた。
 SNS上では、クラスメイトたちが彼の死を悼むメッセージを残していく。

「大丈夫ですか? 真央」

 と、不意にスマホから声が聞こえた。
 幼い少年のような、あるいは女性のような声だった。やけに落ち着いていて、それがラビの声であることに私はなかなか気づけなかった。

「ラビ? そっか、やっと復旧したんだ……」

 先ほどまでずっとメンテナンス中だった彼。あるいは彼女。
 聞き慣れた声ではあるけれど、なぜか口調がいつもと違った。もしかしたらサイバー攻撃の影響で、仕様変更か初期化されてしまったのかもしれない。

「早く寝ないと、明日に響きますよ?」

 ラビの言う通りだった。
 明日は平日で学校があるから、寝坊するわけにはいかない。こんな悲しい事故があっても、きっとあの教室ではまるで何事もなかったかのように授業が始まるのだ。

 夏休みは明々後日から。
 短縮授業がないうちの学校では、明日も六時間目まできっちりスケジュールが組まれている。

「もしも寝付きが悪いのなら、睡眠導入音楽を流しましょうか?」

 こんな時でも、ラビは合理的なサポートを私に提供してくれる。どこか無機質で、理知的な優しさだった。

「うん。……ありがとう、ラビ」

 いつだって冷静でいられるその様子は、まるでお兄ちゃんみたいだと思った。