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 JR神戸駅に着くと、地下街を通ってハーバーランドの方へ向かう。
 その途中、再び地上に出たところで例の事故現場を通りかかって、遠野くんは溜め息を吐いた。

「結局こんな所までついてきて、どうなっても知らないぞ」

 まるで金魚のフンのように後ろにくっついている私に、彼はほとほと困り果てた顔をしていた。

「うん。わかってる。でも大丈夫だよ。私、すごく有力な情報を教えてもらったから」

「有力な情報?」

 事故現場である交差点を通り越すと、今度は目の前の大型ショッピングモール『umie』に入る。
 店内の中央にあるメイン通路は吹き抜けになっていて、天井は遥か頭上、六階の高さにあった。

 そんな通路を進みながら、私はこっそりと深呼吸をする。
 そろそろ覚悟を決めないといけない。

 海辺は告白のロケーションとしては悪くないと思う。
 このまま歩いていけば、私がよく行くウッドデッキのオープンテラスまで出られる。

 あと少し——と、通路の先をまっすぐ見つめていた私の耳へ、

「……危ない、一ノ瀬ッ!」

 突如、遠野くんのそんな声が届いた。
 いつになく切羽詰まった声。

 直後。
 私は彼の腕に抱き寄せられて、右方向へ体ごと移動した。

 その一瞬の後。
 もともと私の立っていた場所へ、硬い金属のような何かが落下して、ガシャン! と甲高い音が響いた。

 近くを歩いていた人たちが短い悲鳴を上げる。

 一体何が起こったのかと改めて見ると、一瞬前まで私の立っていたその場所には、何か鉄の棒のようなものが地面にめりこんでいた。

「これ……まさか天井から落ちてきたのか?」

 私の肩を抱いたままの遠野くんが、恐る恐る頭上を仰いで呟く。

 吹き抜けになった天井は、地上六階の高さにある。おそらくはそこから何かの部品が壊れて落下してきたのだろう。
 騒ぎを聞きつけた店のスタッフたちが、私たちの周りに集まってくる。

 遠野くんが咄嗟に私を抱き寄せてくれていなかったら、私はきっと死んでいた。
 それほどまでに、先ほどの瞬間は危険なものだった。

(これって……まさか)

 運命が、私たちを殺しにきた。
 そうとしか思えなかった。

 今日、私と遠野くんは死の確率が高まっている。ラビの言ったように、今ここで生存本能を高めなければ、私か遠野くんのどちらかはきっと死んでしまう。

「遠野くん……」

 私は彼の胸元に体を寄せたまま、彼の顔をそっと見上げた。
 すると遠野くんも、同じように私を見下ろす。

 お互いの視線が、真っ直ぐに絡み合う。

「一ノ瀬?」

「あのね、遠野くん」

 どくん、どくん、と心臓が鳴る。
 ここで想いを伝えれば、きっと私たちは助かる。
 死を回避するために、私は告白する。
 でも。

(本当にそれでいいの?)

 胸の奥で、もう一人の私が尋ねる。
 私は死を回避するためだけに、遠野くんに告白するのかと。