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しかし次の休み時間も、その次も、二人きりになれる瞬間は訪れなかった。
そのまま昼休みになり、四人そろっていつものように食堂でテーブルを囲む。
「で、遠野はやっぱりハーバーの方まで行くの? どうしても?」
ハルカちゃんが聞いて、遠野くんが頷く。彼の意思は固く、やはり心変わりは一切ないことが窺える。
「オレとハルカは、とりあえず海の方には近づかないようにするつもりだけど。遠野も例の事故現場からは離れとけよ。それから真央ちゃんも、今日の放課後は家で大人しくしてた方がいいかもな」
遠野くんへの告白さえ済めば、そうするのが正解かもしれない。
けれど私がこうしてまごついているせいで、未だに私たちの死の確率は下がっていなかった。
結局、私は彼に告白できないまま、ついには放課後を迎えてしまった。
ハルカちゃんと向田くんは部活へ向かい、私と遠野くんは一緒に下校する。
「なんか、今日の一ノ瀬はちょっと様子がヘンだよな? やっぱり事故のことで不安なのか?」
待ちに待った二人きりの時間。
遠野くんは何も知らずに、私の様子を不思議そうに見下ろす。
「まあ、無理もないよな。自分が死ぬかもしれないってんだから。このまま何事もなければそれが一番だけど」
たった一言。
あなたが好きだと伝えれば済むことなのに、私の口は貝のように閉じたまま。
隣の彼を意識すればするほど、私の胸は高鳴っていく。太陽の熱に当てられて汗ばんだ彼の横顔が、いつも以上に魅力的に見えてしまう。
でも、このままいつまでも黙っているわけにはいかない。
「……あ、あのね、遠野くん!」
やがて思いきって、私は声を上げた。
「ん。どうした、一ノ瀬」
地獄の坂の途中で足を止めて、私たちはお互いを見つめ合う。
セミの声が降ってくる中、海の方から吹き上げてくる風が私たちの制服を揺らす。
「……その……えっと……」
たった一言なのに。
あと少しの勇気が、私には持てない。
「……その……私も、ハーバーの方までついてっていい?」
「はっ?」
愛の告白が、どうしてもできなくて。
咄嗟に思いついたことを口にしてしまう私。
「いや。ダメだろ。事故現場にはできるだけ近づくなって、向田も言ってただろ」
言いながら、遠野くんは再び歩き出す。さっきよりも早足で、私は置いていかれそうになって慌てて追いかける。
「で、でも。それなら遠野くんだってあっちの方に近づいちゃダメでしょ?」
「俺は弟に会うためにあそこへ行くんだ。危険は承知の上で行く。そんな場所へ一ノ瀬も一緒に連れていけるわけないだろ。何かあったらどうするんだよ」
遠野くんはきっと、私のことを心配してくれている。だからこそ、私を連れていくことに反対している。
けれど、私だって。
「私だって……遠野くんのことが心配だもん!」
辺りに響く声で私が言うと、遠野くんも、それから周りを歩いていた他の生徒たちも一斉にこちらを見る。
ちょっとだけ恥ずかしかったけれど、それでも、この叫びは私の本音だった。
遠野くんのことが心配でたまらない。
たとえこのまま告白できたとしても、彼を一人であの場所へ向かわせるのは不安だった。
できれば今日はずっと、彼と一緒にいたい。
彼の無事を、この目で確認したい。
遠野くんはびっくりしたような顔で私を見つめていたけれど、やがて我に返ったように、急にその場から駆け出して駅の方へ向かった。
「と、遠野くん!?」
「ついてくんな! 一ノ瀬は早く家に帰れ!」
半ば叫ぶようにして言いながら、彼は駅の方へ走っていく。
私を置いて、彼はあの場所へ向かおうとしている。
「私も行く!」
負けじと私も叫びながら、彼の後を追いかける。そうして二人してJR灘駅の改札を潜り、神戸駅方面のホームへ向かった。
「お、おい。一ノ瀬はこっち向きの電車じゃないだろ。ついてくるなって言ってるじゃないか」
戸惑う遠野くんに向かって、私は息を切らしながらも、また声を張り上げる。
「遠野くんに何を言われたって、私はついていく! もう決めたから!」
言い合いを続けながら、私たちはホームに着いた電車に乗り込んだ。
そのまま電車は南西に向かって動き出し、私たち二人を海の方へと連れていった。



