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七月十七日。
ついに、この日がやってきた。
昨日の雨はいつのまにか止んでいる。今朝まで濡れていたはずの地面は灼熱の太陽に焼かれて、からりと干上がっている。
今日は平日で学校があるので、私はいつものように汗を垂らして地獄の坂を上っていった。
「あっ、真央。やっときた! こっちこっちー!」
教室に入った途端、そんな声が耳に届く。見ると、部屋の真ん中あたりにある席からハルカちゃんが手を振っていた。
向田くんもすでに登校していたようで、彼女の隣からこちらへ視線を向けている。
「おお。おはよー、真央ちゃん。とりあえずは無事に登校できたようで何よりだ」
無事に、というワードを耳にして、私はハッとする。
思えば今日は、たとえ事故に遭わなくても何が起こるかわからない。この学校へ来るまでの間にも、危険はそこかしこに存在するのだ。
「二人とも、おはよう。その、遠野くんはまだ来てないの?」
辺りを見渡しても、あのすらりと背の高い彼の姿が見当たらない。
「ああ、まだ見てないな。あいつがオレより遅いのって珍しい気がするけど」
そんな状況に、私は一抹の不安を覚える。
遠野くんは大丈夫だろうか。ここへ来る途中で事故に遭ったり、何か物騒な事件に巻き込まれたりしていないだろうか——と、あれこれ考えていると、
「お、三人とももう来てたのか。早いな」
と、すぐ後ろから声が聞こえて、私はびくりと肩を跳ねさせた。
振り返ってみると、そこにはいつのまにか、壁のようにそびえる遠野くんの姿があった。
「おっ、遠野。やっときたか。とりあえず、いまのところは全員無事だな」
「なんだよそれ。例の事故が起こるのは夜の話だろ?」
「今日は何が起こるかわかんないんだぞ。常に周りを警戒しておいた方がいいだろうが」
遠野くんはいつも通りの調子で、特に緊張したりしているようには見えない。
そんな彼の横顔を見つめているうちに、私は昨夜のラビの言葉を思い出す。
——あなたがた全員が生き延びる方法は、あなたが彼方に愛の告白をすることです。
思い出した途端、かあっと顔が一気に熱くなるのを感じた。心臓の音も、急に速くなって頭のてっぺんまで響く。
「ん? どうしたの、真央。なんか顔が真っ赤じゃない?」
「え!? あ、ううん! 何でもないけど!?」
ハルカちゃんに指摘されて、思わず否定したけれど、心の中はすでに恐慌状態だった。
私はできるなら今すぐにでも、遠野くんに自分の気持ちを伝えなければいけないのだ。
(でも、こんなの……言えるわけない!)
この状況で、一体どう切り出せばいいというのか。
今まで告白なんて一度もしたことのない私には、今日のミッションはハードルが高すぎる。
とにかくまずは、遠野くんと二人きりになれる時間を作らなければいけない。
とりあえず、朝一番のこの時間は諦めて、私は次の休み時間にチャンスが到来するのを待った。



