心理実験。
なんとも無機質な響きだった。
「実験って……。なんで、そんなこと」
「我々の惑星は、あなたがたの住む地球に比べれば、科学技術が著しく発展しています。実際にこうして遠い惑星間で交信する技術も、そちらにはまだ備わっていないでしょう。しかし我々は、そんな文明の発展と引き換えに失ってしまったものもありました。それが、『生物としての感情』というものです」
生物としての感情。
淡々と説明するラビの声には、確かに感情というものが見えにくかった。
「文明が進むにつれて、いつしか失われてしまった感情というものを、我々は研究しています。その研究のためには、感情を持った生物を被験者として観察する必要があります。これまでも多くの惑星の生物を観察してきましたが、あなたがたの住む地球に焦点を当てたのは今回が初めてでした。そして我々は、あなたがた四人の奇妙な偶然を発見したのです」
「偶然……?」
あまりの情報量に私の頭はパンク寸前だったけれど、大事な話を聞き逃すわけにもいかず、おとなしく耳を澄ませる。
「同じ高校に通う、同じ年齢の、生活水準も社会的立場も似通った四人の男女が、同じ確率で事故に遭う可能性があった。この場合、それぞれが未来の事故を予見したとしたらどんな行動に出るか。我々は、その結果が知りたかったのです」
七月十七日に起こる事故。
それを予見した私たちは、最初はパニックになって、お互いに様々な感情をぶつけ合っていた。
「我々の予想では、あなたがた四人は何らかの方法によって序列をつけ、命を落とすべき一人を決定するものだと考えていました。四人の中で誰か一人が死ねば、他の三人は助かる可能性が高まります。世の中は弱肉強食であり、生物は生存本能を備えていますが、そこに人の感情というものが加わったときにどんなやり取りをするのか。我々はそれを観測したかったのです」
未来の事故の様子を見せることによって、私たちがどんな反応をするのか。
ラビはその一部始終を、実験として観察していたのだ。
「……ひどい」
ラビの口から語られた、この不可思議な現象の真実。
あまりにも無情で冷酷な仕打ちに、私は思わず涙を滲ませていた。
「ひどいよ、ラビ。あなたにとって私たちは……ただの実験道具だったんだね」
「……すみません、真央。我々のせいで、あなたはいま『悲しい』と感じているのですね」
まるでこちらに同情するような声を出すラビ。おそらくは私が泣いたことによって、それを『悲しみの感情』と理解したのだろう。
「悲しいよ。本当に……。明日、私たち四人の中でもし誰かが命を落としたとしても、ラビはきっと何とも思わないんだろうね」
冷淡で、無機質で。
さすがは感情を失った生物のやることだと、私はもはや畏敬の念のようなものを抱いていた。
「そのことですが」
と、ラビはさらに続ける。
これ以上どんな冷たい言葉をかけられるのかと、私は身構える。
「明日の夜、あなたがたはおそらく事故を回避しようとするでしょう。しかし、一度高まった死の確率を完全に払拭することは難しいと思われます。たとえ事故に遭わなくても、何か別の要因によって命を落とす可能性があります」
たとえ事故を回避したとしても、別の要因で死に至る。
それは以前、向田くんも予測していた内容だった。
「ただし」
と、ラビはさらに付け加える。
「ゼロパーセントまでとはいかなくとも、死の確率を著しく低下させる方法はあります。あなたがた自身の生存本能を高めることが、その鍵となります」
「え……?」



