真夏の観測者たち

 
 およそお兄ちゃんの口から出るはずがないと思っていた言葉。
 それを耳にして、私は呆然とする。

「嫉妬って……お兄ちゃんが、私に?」

「ああ。そうだよ。お前、あのときキャンペーンか何かで絵が選ばれただろ。正直、羨ましかったんだよ。だから俺も、つい感じの悪いことを言っちまった」

「そんな。お兄ちゃんが私に嫉妬なんて、するわけないでしょ。だって私は、いつもお兄ちゃんより下に見られてて……お兄ちゃんは、周りのみんなから褒められてたのに」

「褒められてたって、それ家の中での話か? 確かに母さんからは頼りにされてるっていうか、面倒なことは全部俺に任せとけばいいって感じだったけど。それって別に褒められてるわけじゃないぞ」

「で、でも! 親戚同士で集まったときだって、周りのみんながお兄ちゃんのこと、しっかりしてるって褒めてたでしょ。それにみんなで話してるとき、いつだってお兄ちゃんは会話の中心にいたし」

 私と違って、お兄ちゃんは周りから必要とされていた。
 その場に居ても居なくても変わらない私とは、あきらかに扱いが違っていた。

「親戚同士なぁ。そりゃ、そういう集まりの中でなら、俺だって持ち上げられたりとかもしたけど。でも学校とか、外のコミュニティでもずっとそうだったかって言うと、実際はそうじゃなかった。小学校まではまだクラスの中心グループにいたけど、中学に入って生徒の数も一気に増えたら、俺の存在なんて簡単に埋もれた。俺より話の上手い奴はいくらでもいるし、モテたり勉強できる奴もいっぱいいた。中学に入って、ああ俺って実はどこにでもいるような人間なんだって思い知らされた気分だった。そんなときに、お前のウサギの絵が選ばれたんだ。大勢の応募者の中から、お前ひとりだけが選ばれた。それで嫉妬するなって言う方が無理な話だろ? まあ、当てつけで嫌味を言ったのは悪かったと思ってるけどさ」

 お兄ちゃんの口から次々と出てくる真実に、私は感情が追いついていなかった。

 私のことを、お兄ちゃんが嫉妬していた。
 今まで一度だって考えたこともなかった。

「うそ……。私、お兄ちゃんがそんな風に思ってたなんて、知らなかった」

「俺だってびっくりしてるよ。お前が今でも、あのときのことを気にしてたなんてな」

 たとえ家族でも、兄妹でも、口にしなければ伝わらないこともある。

 今まで私がお兄ちゃんに抱いていたイメージは、今日この会話をもって完全に崩壊した。

 自分がいま何を考えているのか、どうしたいのか。それを口に出さずに自分の中だけで完結させてしまうと、きっと誰の心にも届かないし、理解もされなくなってしまう。

 お兄ちゃんは私を見下していたわけじゃない。むしろ嫉妬の対象として私を見ていたこともあったのだ。

 今日、ここにきてお兄ちゃんと話して、お互いの気持ちを理解することができて、本当に良かったと思った。

 それまでお兄ちゃんに抱いていた畏怖の心は、すでに私の中から完全に消えてしまっていた。