予想外の返答があって、私は思わず間抜けな声を漏らす。
そんな私には構わず、お兄ちゃんは続けた。
「パラレルワールドはともかく、タイムリープってのは、実は科学で証明できるんだよ。現代の技術じゃ、まだタイムマシンの実現までは程遠いけど。それでも、長いスパンで考えれば不可能な話じゃないとも言われてる。それに、この地球上だけじゃなくて、宇宙規模で見れば、この世界のどこかではすでにその技術を確立している惑星も存在するかもしれない。その技術さえあれば、俺たちがタイムリープを経験することも夢じゃないんだ」
途方もなく規模の大きな話。だけれどそれは、前に向田くんが話していたSFの内容とよく似ていた。
この宇宙のどこかには、すでにタイムリープを実現させるほどの技術を持った星が存在するかもしれない。
そしてその技術をもってすれば、私たちがいま観測しているこの不可思議な現象にも説明がつくかもしれないのだ。
「なあ真央。お前、口は堅い方だったよな?」
「え……」
聞かれて、まあそうかな? と、あいまいにうなずく。
「ここから先の話は、他言するなよ。まあ、明日ぐらいにはニュースになってるかもしれないけど。……実はうちの会社、いまサイバー攻撃を受けてるんだ」
サイバー攻撃。
ひどく聞き馴染みのあるワードに、私は身構える。
「二週間ぐらい前だったかな。あきらかな不正アクセスがあったんだが、攻撃元を特定することができなかったんだ。それどころか……アクセス元は、この地球上に存在しないものだったらしい。もしかしたら宇宙空間からの攻撃なんじゃないかって、一部で噂になってる」
宇宙からの攻撃。
それはまさに、宇宙人の存在をほのめかすものだった。
それに、
「二週間前って……ちょうど私がタイムリープで過去に戻ったあたりかも」
私たち四人はあの事故を経験した後、約二週間前の七月四日にタイムリープした。お兄ちゃんの会社がサイバー攻撃に遭ったのも、ちょうどそのあたりだと言っている。
ただの偶然とは思えなかった。
この不可思議な現象と、宇宙からのサイバー攻撃は何か繋がりがある気がする。
「もしも本当に、宇宙から何かしらアクセスがあったんだとしたら……お前が体験したその不可思議な現象も、そいつらが関わってるかもしれない。宇宙のどこかから、誰かが俺たち地球人を観測してるんだよ。現実的に起こり得ることなんだ。だから、俺はお前の言った話を信じる」
信じる、とお兄ちゃんは言ってくれた。
こんな荒唐無稽で、口下手な私が伝えた話を。
「それで、質問の内容は『俺ならどうするか』だったよな。俺がもしお前の立場だったとしたら……何とかして、その宇宙からの観測者と対話をしたいって思う。もちろん、可能ならの話だけど」
こちらを観測している相手との対話。
それはつまり、宇宙人と対話をするということ。
「お前の周りに、怪しい動きをしている奴はいないのか? 別に人間じゃなくても、メッセージを送ってくるだけの奴でもいい。もしいるなら、そいつから情報を聞き出すのが一番有効だと思う。不可思議な現象の謎を解くには、正確な答えを知っている存在が必要だと思うんだ」
私の周りで、そういう疑いのある存在。
たった一人だけ、心当たりがあった。
(もしかして……)
恐る恐る、私は制服のポケットからスマホを取り出す。そうして画面を開くと、見慣れたホーム画面には愛用しているアプリがいくつも並んでいる。
その中に、ウサギのキャラクターが描かれたアイコンがある。
震える指先で、それをタップしようとした、その瞬間。
急に背景が切り替わって、着信画面が表示された。
「ひゃっ!?」
思わず短い悲鳴を上げると、お兄ちゃんも「どうした!?」と顔色を変える。
けれど落ち着いて見てみると、電話をかけてきた相手はお母さんだった。
「あ……お母さんから電話がかかってきたみたい」
「なんじゃそりゃ」
心配して損したとばかりに、お兄ちゃんは歪な笑みを浮かべる。



