真夏の観測者たち

 
 彼の心の叫びが、辺り一帯に響き渡った。

「…………はぁ!?」

 私も遠野くんも呆気に取られている中で、ハルカちゃんが困惑の声を漏らす。

 直前まで、向田くんに告白をする準備をしていた彼女。それが今、二人の立場は一瞬にして逆転していた。

「……ちょ。何それ。ほんと、何言ってんの悠生……?」

 あきらかに動揺しているハルカちゃんは、見る見るうちに顔面を真っ赤にさせていく。
 向田くんは再びこちらを振り返ると、珍しく緊張した面持ちで言う。

「いつもみたいな冗談じゃないぞ。オレは本気だ。オレは……ハルカのことが好きなんだ」

 そう改めて告白した彼に、私はもちろん、隣の遠野くんまでもが息を呑む。

「……例の事故の日まで、あと三日しかないだろ。七月十七日。当日は、オレたちの身に何が起こるかわからない。できれば何事もなく平穏に過ごしたいけど、下手をすれば、オレはその日のうちに死ぬかもしれない……。だから、もしもそうなったときのために、オレは自分のやりたいことを今のうちにやっておこうって思ったんだ。この先、何があっても後悔しないように。自分が今どうしたいのかって考えたときに、一番に頭に浮かんだのがハルカのことだった」

 たとえこの先に何があっても、悔いの残らない道を選ぶこと。
 それは昨日ハルカちゃんが私に打ち明けてくれた気持ちと一緒だった。

「オレは、ハルカのことが好きだ。中学のときからずっと。だからハルカさえよければ、俺と……」

 彼はそこで一度切ると、こちらに背を向け、またしても海に向かって叫んだ。

「……俺と付き合ってくれ———!!」

 改めて愛の叫びを披露する彼に、周囲の人々も一体何事かと注目し始める。中には「ヒューッ」とわざとらしく冷やかすような声を出す人もいた。

 あちこちから好奇の視線が集まる中で、ハルカちゃんはもはや茹でダコのように真っ赤になっている。
 しかしそんな状態になっても、彼女はその場から逃げ出すようなことはせず、静かに足を踏み出して、向田くんの方へ歩み寄った。

 そして、彼と同じように柵に掴まって、そこから身を乗り出しながら、

「……よろこんで———っ!!」

 海に向かって、彼女は素直な想いをどこまでも響かせたのだった。

 直後、周囲の野次馬たちから歓声が上がり、拍手が生まれる。
 私と遠野くんも思わず立ち上がって、その場はスタンディングオベーションさながらの盛り上がりを見せたのだった。


          ◯


 帰りは例によって、向田くんがハルカちゃんを、遠野くんが私を家まで送ってくれることになった。

「なんか、最後にすげえのが見れたよな、今日」

 ひっそりと静まり返る住宅街を歩きながら、遠野くんが言った。

 私もまだ胸がドキドキしている。
 もともと今日はハルカちゃんが向田くんに告白するつもりでいたのに、まさかの向田くんの方から彼女に気持ちを打ち明けたのだ。

 そうして彼らは晴れて結ばれた。
 新しいカップルが誕生する瞬間を、私と遠野くんは目の前で見たのだ。