何が? とこちらが聞き返す前に、彼女はにんまりとイタズラっぽい笑みを浮かべて言う。
「遠野のこと、どう思ってんの?」
遠野くんのこと。
その名前を耳にした瞬間、彼のささやかな微笑みが頭を過ぎる。
ハルカちゃんの言う『どう』というのは、間違いなく恋愛の意味だった。
つい先日、自覚した彼への想い。
それを思い出して、私の胸はたまらず早鐘を打つ。
「あはは。真央、顔が真っ赤だよ。わかりやすいねー」
どうやらハルカちゃんにはバレバレらしい。からかうように笑う彼女の顔を、私はまっすぐに見れない。
「……いつ、気づいたの? 私の気持ち……」
「んー。初めて怪しいなって思ったのは、このあいだの放課後、二人きりで教室で話してたとき?」
私が日直の日だ。教室の窓から陸上部の様子を眺めていたとき、遠野くんがやってきて、私の絵を褒めてくれたあの日。
「でも、それ以外でもやっぱり何か感じるときはあったよ。だって真央、遠野と話すときはなんか雰囲気が違うもん。あいつの前だと、よく喋るし」
やっぱりバレバレだ。
それもそうか。私自身、遠野くんと話すときは心の身構え方が違う。
「明日の浴衣、真央も気合い入れなきゃいけないね。実質ダブルデートだもんね」
「でっ……」
にひひ、と笑うハルカちゃんに、私はもはや何も返せなくなる。
デートなんて、およそ私とは無縁のイベントだったはずなのに。ここ数日だけで、今までの私では考えられないような展開が続きすぎている。
「ちなみに遠野、好きなタイプは和服美人らしいよ」
「えっ。何それ。本当に本人に聞いたの……?」
どこまでが本当かわからないようなことを、ハルカちゃんはどこか意地の悪い笑みを浮かべて言う。
和服美人なんて、私とは正反対の女性のことをいうんじゃなかろうか。大人っぽくて、お上品な人が遠野くんは好きってこと?
「和服美人が好きってことは、浴衣が似合う女の子も好きかもよ? そういうわけだから、明日の浴衣はお互いに真剣に選ばないとね。いわば勝負浴衣ってやつ!」
「勝負浴衣……」
遠野くんは、本当に和服美人が好きなのだろうか。
明日、もしも私が綺麗に浴衣を着こなしていたら、彼も少しは私に興味を持ってくれるだろうか。
考えれば考えるほど、胸が高鳴る。体がそわそわとして落ち着かない。早く明日が来てほしいって思う。
好きな人がいるって、きっとこういうこと。
中華そばと焼飯を完食すると、私たちはすぐに店を出た。
そうして再び浴衣を探しに行く前に、ハルカちゃんは生田神社へ願掛けに行かないかと私を誘った。
生田神社は三ノ宮の中心部にある、一八〇〇年もの歴史を持つ由緒正しい神社だ。祀られているのは縁結びの神様で、今の私たちにとってはこれ以上にない強力な味方である。
入口の鳥居を潜ると、白い石畳の続く先には朱色の楼門と、さらに奥には拝殿が見える。
境内の奥には『生田の森』という鎮守の森が広がっていて、そこはかつて源平合戦の戦場となったことや、枕草子に記されていることでも有名だった。
ハルカちゃんと二人でお賽銭を投げ入れ、一緒に手を合わせる。
(神様、どうか)
シンプルに恋愛成就を祈願しようかとも思ったけれど、そこで私は思い直す。
私の望むこと。
いま私が何よりも願っていること。
それはきっと、いま噛み締めているこの幸せを失いたくないということだ。
いまある幸せがこれからも続いていくこと。
遠野くんと一緒にいたい。それにハルカちゃんとも、向田くんとも。
この四人でずっと、これからも楽しく笑い合って過ごせる日々が続いてほしい。
だから、
(神様、どうかお願いします。私たちを、あの事故から守ってください。四人全員で、無事に夏休みを迎えられますように)



