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七月十三日の土曜日。今日はみなとまつりの一日目で、私とハルカちゃんは約束通り一緒に浴衣を買いにいく。
待ち合わせは神戸の中心地、三ノ宮。
人でごった返す駅前で合流すると、お互いに私服姿が新鮮だった。こうして学校以外で会うのは久しぶりな気がする。
「さぁーて。あたしたちに相応しい浴衣はどこかなー?」
朝からテンションの高いハルカちゃんは、私を連れてセンター街の方へ向かう——と思いきや、そこを通り越してさらに南の方まで歩いていく。
「あれ? どこまで行くの?」
センター街より南の方角には、旧居留地と呼ばれるエリアが広がっている。
ここは昔、幕末の頃に海外から船でやってきた人々が生活していた場所で、当時の面影を残す歴史的な建造物が並んでいる。
石造りのレトロなビルや、美しい白壁の洋館など。異国情緒が溢れる街並みはフォトスポットとしても人気があるので、道の途中でウエディングフォトを撮っている人の姿を見かけることも多い。
そんなお洒落な雰囲気の通りの一角に、ひときわ大きな石造りのビルが見えてきた。まるで宮殿のような外観を持つその建物は、大丸百貨店である。
「え。もしかして大丸に行くの……?」
「そ! ここならお洒落な浴衣もたぶん売ってるでしょ」
「で、でもこういう所って値段が高いんじゃ……」
百貨店では高級品を扱っている、というイメージが強い。私たちのような高校生にとっては値段の張るものばかりで、とても手が届かないのではと思うのだけれど、
「ふっふっふ。甘いねえ、真央。こういうお店は確かに値段が高いけど、そのぶん質の良いものが揃ってるんだよ。しかもそれがセールになっていたりすると、良いものを安くで買えることもあるんだよ?」
そう言ったハルカちゃんの瞳には、まるで獲物を狙う肉食獣のような鋭い光が宿る。
良いものを安くで買う。確かにそれができれば言うことはない。
私は彼女に連れられるまま、戸惑いながらもそこへ足を踏み入れた。
しかし、
「うーん……。こっちの柄も安くならないかなぁ……」
値下げされている商品は確かにあったものの、手の届く範囲では選択肢が狭かった。ハルカちゃんが気に入ったものは通常価格のままだったので、他の店と比べるとやはり値段が張る。
「ま、高けりゃいいってもんじゃないし!」
結局、ハルカちゃんは悔しげに捨てゼリフを吐いて建物を後にした。私も特に購入できそうなものはなかったので、苦笑しながら彼女の後についていく。
そうして再び外に出ると、目の前の車道を挟んだ先には南京町の入口が見えた。
この神戸の南京町は、日本三大チャイナタウンの一つに数えられる賑やかな中華街だ。
中華料理店はもちろん、肉まんやスイーツの屋台なども出ていて、そこを歩くだけでお腹が空いてくるような雰囲気に包まれている。
時刻はちょうどお昼に差し掛かったところで、私のお腹は条件反射のように「ぐぅ」と鳴る。
「どうする? 南京町でお昼にする? ちょっと休憩したいしね」
ハルカちゃんが言って、私は頷く。
そうして目的の浴衣はまだ買えないまま、私たちは道路を渡って入口の門まで向かった。



