「それはつまり、あなたは死にたくないと思っているのではありませんか?」
ラビに言われて、そうなのかな、と思う。
私は死にたくないのだろうか。
「でも、ラビ。もし本当に七月十七日に事故が起こって、私たち四人の中で誰か一人が死ぬとしたら……私が死ぬのが、一番マシだと思うの」
私が死んでも、困る人は誰もいない。
そして他の三人は、誰かに必要とされている。
「どうして、そう思うのですか? 真央は、死にたいと思っているわけではないのでしょう?」
「死にたいわけじゃないけど……。でも、遠野くんやハルカちゃん、それに向田くんが死んじゃうくらいなら、私がそうなった方がいいかなって」
「それはどうして? あなたが自ら死を選んだところで、あなたが利益を得ることは何もないのでは?」
きっと、ラビにはこの考えは理解できないんだと思う。
私が死んだところで、私が得るものは何もない。だから非効率的だと、AIであるラビにはそう思えるのだろう。
「ハルカたちと、相談はしないのですか?」
また、ラビの方から質問する。今日はやけにぐいぐい来るなと思う。
「相談って、何を?」
「四人の中で、もし誰かが本当に死ぬとしたら、それを誰にするか。話し合って決めようとは思わないのですか?」
誰が死ぬべきか、なんて。そんな話し合いはしたくなかった。
別に誰も死にたくなんてないはずだし、逆に誰かに死んでほしいと本気で思うはずもない。
けれどラビは、
「前に悠生が言っていましたよね。もし四人の中で誰か一人を選ぶとしたら、彼は彼方を選ぶのだと」
悠生、彼方、と二人の名前が出て、ラビが彼らのフルネームをしっかり記憶していることに驚く。それに向田くんが前に言っていたことも、全部覚えているらしい。
「あれは……あのときはきっと、向田くんも本気じゃなかったんだよ」
あのとき、向田くんは遠野くんと口論になって、その勢いであんなことを言ってしまったのだ。だからきっと、今はそんなことは思っていないはず。
「わかりません。真央が何を根拠に発言しているのかも、悠生がなぜ虚偽の発言をしたのかも」
どうやらAIでも混乱するときはあるらしい。
特にハッキリとした答えを出したい話題でもないので、私はそれ以上何も言わなかった。
やがて私の足は、駅近くの商店街へ差し掛かる。
『三ノ宮センター街』。縦にも横にも広いアーケードの下を、ひしめき合うように人が流れていく。
左右に並ぶたくさんの店。それらをぼんやりと眺めているうちに、ふと目に入ったのは七夕の短冊だった。
通路の一角に、大きな笹が飾られている。そこにカラフルな短冊がいくつも吊るされ、表面には願い事が書かれている。
そういえば今日は七月七日で七夕だったのだと、私はこのとき初めて気づいた。
そしてたまたま目に入った短冊の願い事に、私は目を見張る。
『四人全員で生き残る! 向田悠生』
太いマジックで幅いっぱいに大きな字が書かれたそれは、向田くんの願い事だった。
さらにその隣にあるピンクの短冊を見てみれば、
『みんなで無事に夏休みを迎えられますように 天江ハルカ』
見覚えのある丸っこい字で、ハルカちゃんも願い事を書いていた。
きっと、二人は一緒にここへ来たのだ。そして二人とも、私たち四人の全員の無事を祈っている。
——俺たちが目指すところは決まってる。『誰も死なない』っていうのが最善の結果のはずだ。
遠野くんも言っていた。
私たち四人で、全員生き残ることが最善の結果なのだと。
「真央、どうかしましたか?」
ラビが聞いた。
短冊の前に立ち止まって、私はひとり思いを巡らせる。
「……やっぱり、ちょっと考え直してみる。私、考えるのに時間がかかるから。あんまり急かさないでね」



