「SF映画とかでこういう現象が起こるときってさ、必ず何か引き金になるものがあるんだよな」
向田くんは負けじと続ける。あくまでもこの現象はSF的なものであるという方向へ持っていきたいらしい。
「引き金かぁ。やっぱり、あの駅前の事故も何か関係してるのかな」
ハルカちゃんはぼんやりと宙を見上げて言う。
この不可思議な現象が起こった背景には、きっと何か原因がある。それは私も同意見だった。
「あの日、あの時間に全員があそこへ居合わせたのはやっぱり偶然じゃない気がするんだよな。だとしたら、あの場所に何かヒントがあるんじゃないか? ってことでさ、今日の放課後は、みんなでハーバーの方まで行ってみないか?」
そんな向田くんの提案に、ハルカちゃんが「えっ」と反応する。
「放課後? って、部活はどうすんの?」
「忘れたのか? 今日は七月五日だぞ。オレたちが過去にタイムリープしたのが事実なら、今日は顧問の二人が用事で来れなくて、部活は中止になる」
「え? ああそっか。そういえば、あれって今日だっけ。悠生、よく日にちまで覚えてたね」
私たちにとって、今日この日を体験するのはこれで二度目。一度目の記憶通りに物事が進むなら、今日の陸上部の活動は中止ということになる。
「ってわけで、放課後は海辺の方へ向かおうぜ。遠野と真央ちゃんも、それでいいよな?」
半ば強引に話を進める向田くん。
私は特に用事もないので大丈夫だけれど、遠野くんは空手の練習があるんじゃないかな——と、彼の顔をそれとなく窺ってみると、
「俺は問題ない。一ノ瀬はどうだ?」
と、逆に私の方が聞かれてしまった。
「えっ。あ、うん。私も大丈夫だよ」
「本当か? 俺たちに合わせて無理してたりしないだろうな?」
「うん。本当に大丈夫!」
遠野くんはやっぱり優しい。私が気の弱い性格だってわかった上で心配してくれている。
「よし。じゃあ、決まりだな。放課後は四人でハーバーランドへ行くぞ!」
そんな向田くんの掛け声で、私たち四人は放課後の約束を取り付けたのだった。
◯
四人で校門を抜け、正面に海を見据えながら地獄の坂を下りる。そうして最寄りのJR灘駅に着く頃には、全員あまりの暑さに音を上げていた。
「ねえ。ちょっとコンビニ寄っていい? あたしアイス食べたい!」
ハルカちゃんの要望で、駅構内にあるコンビニへ入る。入口の扉を開けた瞬間、中から冷んやりとした空気が溢れて、その気持ちよさに全身の細胞が生き返る心地だった。
「真央ー。一緒にこれ食べない?」
ハルカちゃんに呼ばれて、私は彼女の手元を覗き込む。そこにあったのは、二本のチューブ型アイスがペアになったものだった。真ん中で折ると二つに分けられるので、二人で一本ずつ食べられるように想定された形になっている。
「いいね。食べる!」
私が快諾すると、ハルカちゃんは「よっしゃ!」と嬉しそうにはにかんだ。
それからケンカのお詫びにと、アイスは彼女が奢ってくれることになった。私はもう気にしていなかったけれど、彼女はまだちょっとだけ罪悪感が残っているらしい。
向田くんはソーダ味のアイスバー。遠野くんはスポーツ飲料水のペットボトルを一本買う。
そうして電車が来るまでの間、私たちはそれぞれの購入品で暑さを凌いだ。
ホワイトサワー味と銘打たれたアイスは、爽やかな冷たさを保ったまま喉を滑り、私の火照った体を程よく冷ましてくれた。



