真夏の観測者たち

 
          ◯


 翌朝。
 いつものように電車に乗って、学校を目指す。JR灘駅で降りて北口の改札から出ると、そこから山に向かって伸びるのは例の地獄の坂だった。

 ただでさえ傾斜がきつくて長いこの坂に、夏は灼熱の太陽の光が降り注ぐ。私と同じ制服を着た周りの生徒たちも、もはやうんざりとした表情で汗を垂らしている。

 とはいえ、嘆いていても仕方がない。私も周りと同じように腰を丸めて坂を上っていく。
 すると、ちょうど中間くらいまで来たところで、視線の先に見覚えのある姿を見つけた。

 私と同じ女子の制服。ダークブラウンの長い髪を低めのツインテールにしたその後ろ姿は、見間違えるはずがない、ハルカちゃんのものだった。

 彼女が、私の前を歩いている。道の先、三十メートルほど離れたところに彼女がいる。ここから走れば、なんとか校門に入るまでには追いつけるかもしれない。

(どうしよう……)

 彼女と話さなきゃ、と思うのに、体はすぐには動いてくれない。
 もしもまた彼女に拒否されてしまったら。嫌な顔をされてしまったら。こちらの言葉に耳を傾けてもらえなかったらと思うと、足がすくみそうになる。
 けれど、

 ——明日は、天江ともちゃんと話してみろよ。

 昨日、遠野くんと約束したんだ。
 ハルカちゃんと話して、彼女の気持ちをちゃんと確かめるって。

 ——一ノ瀬が真剣に話そうとすれば、あいつだって聞いてくれるだろ。

 遠野くんが言ってくれた。
 私はもう、普通に話せる。今までうまく話せなかったのは、自分に自信が持てなくて、私自身が人との会話にブレーキをかけていたからだ。

 ——がんばれよ。もし逃げられそうになっても、食いつけ。こっちの話を最後まで聞かせてやるまでは、絶対に放すな。

 私が本当はどうしたいのか、ちゃんと言葉で伝えないといけない。

 私は、ハルカちゃんと話がしたい。
 彼女がどうして怒っているのかを確かめて、謝りたい。
 また前みたいに、彼女と仲良くなりたい。

 だから私は、走った。
 この急勾配の坂を、全速力で。

「……ハルカちゃん!」

 慣れない坂道ダッシュで息を切らしながら、私は大声でその名前を呼んだ。
 直後、周りの生徒たちからは一斉に視線が集まってくる。当のハルカちゃんも、びっくりしたように足を止めてこちらを振り返る。

 目立つ行動をしている、という自覚はあった。こんなにもたくさんの人の目に晒されるなんて、普段の私では耐えられない状況だった。

 けれど、今はただ、私はハルカちゃんと話したい一心だった。

「……え、真央?」

 ぽかんとした顔のまま、ハルカちゃんは固まっていた。
 やがて私は彼女のもとへ追いついて、膝に手をつきながら、乱れた呼吸を整える。