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翌朝。
いつものように電車に乗って、学校を目指す。JR灘駅で降りて北口の改札から出ると、そこから山に向かって伸びるのは例の地獄の坂だった。
ただでさえ傾斜がきつくて長いこの坂に、夏は灼熱の太陽の光が降り注ぐ。私と同じ制服を着た周りの生徒たちも、もはやうんざりとした表情で汗を垂らしている。
とはいえ、嘆いていても仕方がない。私も周りと同じように腰を丸めて坂を上っていく。
すると、ちょうど中間くらいまで来たところで、視線の先に見覚えのある姿を見つけた。
私と同じ女子の制服。ダークブラウンの長い髪を低めのツインテールにしたその後ろ姿は、見間違えるはずがない、ハルカちゃんのものだった。
彼女が、私の前を歩いている。道の先、三十メートルほど離れたところに彼女がいる。ここから走れば、なんとか校門に入るまでには追いつけるかもしれない。
(どうしよう……)
彼女と話さなきゃ、と思うのに、体はすぐには動いてくれない。
もしもまた彼女に拒否されてしまったら。嫌な顔をされてしまったら。こちらの言葉に耳を傾けてもらえなかったらと思うと、足がすくみそうになる。
けれど、
——明日は、天江ともちゃんと話してみろよ。
昨日、遠野くんと約束したんだ。
ハルカちゃんと話して、彼女の気持ちをちゃんと確かめるって。
——一ノ瀬が真剣に話そうとすれば、あいつだって聞いてくれるだろ。
遠野くんが言ってくれた。
私はもう、普通に話せる。今までうまく話せなかったのは、自分に自信が持てなくて、私自身が人との会話にブレーキをかけていたからだ。
——がんばれよ。もし逃げられそうになっても、食いつけ。こっちの話を最後まで聞かせてやるまでは、絶対に放すな。
私が本当はどうしたいのか、ちゃんと言葉で伝えないといけない。
私は、ハルカちゃんと話がしたい。
彼女がどうして怒っているのかを確かめて、謝りたい。
また前みたいに、彼女と仲良くなりたい。
だから私は、走った。
この急勾配の坂を、全速力で。
「……ハルカちゃん!」
慣れない坂道ダッシュで息を切らしながら、私は大声でその名前を呼んだ。
直後、周りの生徒たちからは一斉に視線が集まってくる。当のハルカちゃんも、びっくりしたように足を止めてこちらを振り返る。
目立つ行動をしている、という自覚はあった。こんなにもたくさんの人の目に晒されるなんて、普段の私では耐えられない状況だった。
けれど、今はただ、私はハルカちゃんと話したい一心だった。
「……え、真央?」
ぽかんとした顔のまま、ハルカちゃんは固まっていた。
やがて私は彼女のもとへ追いついて、膝に手をつきながら、乱れた呼吸を整える。



