真夏の観測者たち

 
「あれっ?」

 思わずそんな声を出すと、遠野くんが「どうした?」と反応する。

「あ、ううん。なんか、スマホの日付の表示がおかしくて……」

 私のスマホの調子が悪いのかな? と思ったけれど、遠野くんはすぐに自分のスマホを取り出して確認する。

「……俺のもおかしい。今日って七月十八日のはずだよな? けど、スマホでは七月四日になってる」

「えっ」

 どうやら私だけではないらしい。同じように向田くんも確認すると、やはり同様の現象が起きているようだった。

「おいおい。七月四日って、二週間も前のことじゃないか。まさかオレたち、いつのまにか過去に戻っちまったのか?」

 さすがに、三台のスマホが同時に故障するとは思えない。向田くんは難しい顔でスマホの日付と睨めっこしたまま、唸るように続ける。

「事故が起こったのって、七月十七日の夜だったよな? 今日が本当に七月四日だっていうなら、まだあの事故は起こってないことになる。だから四人ともまだ生きてるってことなのか……? まさかパラレルワールドだけじゃなくて、タイムリープまで起こってるってことか!?」

 うひゃー! とますますテンションを上げる向田くんとは対照的に、遠野くんは相変わらず冷静に言う。

「いや。そもそも、俺たちの認識の方が間違ってるのかもしれないぞ。実際にはタイムリープとかそんなSF的な現象は何も起きてなくて、俺たちがただ集団幻覚を見てるだけなのかもしれない。昨日の事故だって、そういう夢を四人同時に見ただけって可能性も……」

「はあ? 夢ぇ?」

 向田くんは心底興醒めした顔をする。

「四人そろってあんな悲惨な事故の夢を見るなんて普通あり得ないだろ。どんな確率だよ、それ」

「それを言うならパラレルワールドとかタイムリープとか、そっちの方が非現実的だろ。常識的に考えて」

 段々と言い合いになり、険悪になっていく二人。私がハラハラと見守っていると、そこへ再びラビが口を開く。

「夢といえば、予知夢というものもありますね。あなたたち四人は、今から二週間後に交通事故で誰かが亡くなる夢を見た。それがもしも予知夢だった場合、あなたたちの内の誰か一人が、実際に亡くなってしまう可能性があります」

 さらりと恐ろしいことを言うラビ。
 向田くんは「ふはっ」と噴き出すようにして笑う。

「SFの次はオカルトか。いよいよ何でもありになってきたな。いずれにせよ、オレたち四人は今、この世界で特別な存在になってるってことだよな」

「特別な存在?」

 私がオウム返しに聞くと、彼はどこか得意げな笑みを浮かべて言った。

「オレたちは『観測者』なんだよ。周りの誰もが気づけなかったこの世界の異変に、オレたちだけは気づいてる。世界でたった四人、オレたちだけが、この不可思議な現象を観測しているんだ」

 私たちは特別な存在。
 そう豪語する向田くんに、「なんで嬉しそうなんだよ」と遠野くんがツッコミを入れる。

 予知夢、集団幻覚、タイムリープ、パラレルワールド……一体何が正解なのかはわからない。もしかしたらどれも正解ではなくて、もっと別の要因が今のこの状況を作り出しているのかもしれない。

 向田くんはどこか楽しそうにしているけれど、私は内心、不安で仕方がなかった。

 私たちの記憶の中で、事故が起こったのは七月十七日の夜。
 今から約二週間後、私たちの身に何かが起こるかもしれない。
 もしかしたら本当に、この中の誰か一人が死んでしまうかもしれない。

 なら、その日までに私たちがすべきことは一体何なのか。

 わからないことだらけのまま、セミの声がこだまする校内には、授業の開始を告げるチャイムが鳴り響いた。