真夏の観測者たち

 
 私が死んだ、と彼は言う。

 一体どういうこと?

 ますますわからなくて、私は目を白黒とさせる。

「え、えっと。私、死んでないよ? 昨日亡くなったのは遠野くんで……だから、遠野くんはここにはいないはずなのに。どうして」

「一ノ瀬こそ、なんでここにいるんだよ。昨日、事故で亡くなったって聞いたけど……」

 昨日の事故で命を落としたのは、私。
 遠野くんはそう言っている。

 お互いの認識が噛み合わなくて、私はもちろん、遠野くんも珍しく焦っているような顔をする。

「お。なんか珍しい組み合わせだな、一ノ瀬と遠野って」

「ほんとだ。いつのまに仲良くなったんだ?」

 と、今度は教室の奥の方から男子たちの茶化すような声が聞こえてきた。
 その発言からすると、彼らにも遠野くんの姿は見えているらしい。ということは、今ここにいる遠野くんはやっぱり幽霊や幻の類ではないということだ。そして、昨日の事故のことは私たち以外に誰も覚えていないように見える。

 何が何だかわからないまま、校内には予鈴が鳴り響いた。
 色々と聞きたいことはあるのだけれど、今は仕方なく、私は自分の席へ戻ることにする。

 騒がしかった教室が少しずつトーンダウンしていき、やがて担任の男性教師が入ってきて、挨拶の号令がかかる。
 そのギリギリのタイミングで、一人の男子生徒が教室内へと滑り込んだ。

 向田悠生くんだった。
 爽やかなセンター分けの髪に、陽のオーラを常に纏った人。そして昨日、遠野くんが事故に遭ったことをSNSで最初に報告した人物でもある。確か、事故の瞬間を目撃したとも言っていた。

 彼ならもしかしたら、昨日の事故について何か知っているんじゃないか——と、私はわずかに期待を寄せる。

(後で、向田くんにも話を聞いてみよう)

 先生との挨拶を終えた後は、出欠確認だった。名前が呼ばれるのは出席番号順。
 苗字が『一ノ瀬』の私は前から二番目。そして私の前の出席番号一番は、例のケンカ中の友達だった。

天江(あまえ)。天江ハルカ……は、体調不良で休みだったな」

 どうやら欠席のようだった。
 昨日のことで、私は彼女と顔を合わせるのが気まずかったから、今日は欠席であることにある意味ホッとした。とはいえ、何も問題は解決していないので先延ばしになっただけだけれど。

「先生」

 と、そこへ一人の男子生徒が手を挙げた。先生が返事をするよりも早く、彼はその場に立ち上がって質問する。

「先生。ハルカは……天江は本当に、ただの体調不良なのか?」

 どこか切羽詰まった声でそう尋ねたのは、向田くんだった。なんだか普段の彼らしくない様子に、私は違和感を覚える。

「どうした、向田。天江のことで何か聞いてるのか?」

「何かって……」

 彼は引きつった表情のまま教室中を見渡すと、これまたとんでもないことを言い出した。

「だってハルカは……昨日、事故に遭って死んだじゃないか!」

 ざわり、と教室内がどよめき立つ。

 私ももちろんびっくりして、思わず彼の顔を凝視する。