パシャッ

「こんなこともできないの!この、疫病神が!!」

「申し訳ありません。」

「口を開くんじゃないよ!忌々しい、、、」

私は、卑しい子だ。

正妻の子なのに、次女にうまれ、しかも、顔は醜いと言われ前髪で隠すことを余儀なくされる。

それに対して、お姉様は妾の子でありながらも長子(ちょうし)として産まれた。

この国では、長子がとても強い発現力をもつとともに、家督を継ぐ。

だから正妻の子といえど、2番目に産まれた子は発言力が弱くなるのだ。

しかし、普通はこんなことをされないのだろうと心の何処かで思う。


「聞いてるの!?」


「はい、、、」


「まったく、親が親なら子も子ね。もういい、下がりなさい。」


「失礼いたします。」





私の人生は、ある日を境に変わってしまった。

それはとある冬の話だ。

私には、両親がいた。

その頃はまだ、お姉様のお母様も私の母とうまくやっていたと思う。

それに、家族仲は至って良好だと言えただろう。

しかし、お父様が冬の寒くて痛いほどの冬の日に急死した。

それまでは、お父様は元気で、いつも私に笑いかけてくれていた。

そして、お父様が死んでから2〜3日たった頃、義お母様の私に対する態度が激変した。

そのときまで、私も良家の娘らしく丁重に扱われていたのだ。

だが、それからというもの、私の扱いは使用人以下になってしまった。

なぜ、と当時は思いもした。

しかし、今思うと答えは明白だった。

お義母様は、お父様が、いいえ、自分より上に立つものの存在が許せなかったのだろう。

その片鱗は、ぬるま湯のような生活の中でもチラチラ見え隠れしていた。

そして、お姉様と久しぶりにあった時、お姉様は優しかったときとは打って変わって、私に対して辛辣な態度に成り代わってしまった。

なぜだかはもうわからない。

そして、更には私のお母様も、お父様を追うようにこの世を去った。

その時の絶望は計り知れない。

このようなことが積み重なったからだろう。

私は、『抵抗』という言葉や感情を何処かにおいてきてしまった。

だから、私はもう何も感じない。

お人形のように、ただ言われたことを淡々とそして、従順にやるだけの存在と成り下がったのだ。


バサバサッ


そうして、私が物思いにふけっていると、どこからか何かが落ちてくる音がかすかに聞こえた。
なんだろう。
ここには、入れないはずなのに。
ここは、(はな)れというのもおこがましいほどで、馬小屋のような場所なのに、、、


バサバサバサッ


、、、もしかしたら、動物が怪我をして動けないのかもしれない。
そうだったら、助けないと。
そう私が決心をして、庭とよべるかもわからないような雑木林の中に入っていった。





そうして、10分ほどすすむと、そこには驚くべきような光景が広がっていた。
その光景に私は、息が飲まれるような感覚に陥った。


「きれい、、、」


そこにはなんと、怪我をした真紅の鳥を取り囲むように多種多様な動物達が守っていたのだった。
その鳥は、真紅の翼に、見惚れるような
しかし、私はハッと我に返り怪我をしている鳥の手当てをしようと動いた。


バサバサッ!


手当てをしようとすると、いきなり怪我をしている鳥が私に向かって、攻撃してきた。
こころなしか、周りを囲っている動物たちも敵意の目をしているような気がする。
しかし、私は物怖じしながらも、心の片隅で”ここで行かなければ、本当の人形になってしまう、、、!”ということを感じていた。
そのため、一歩踏み出した。


「、、、大丈夫?」


バサッ


「ごめんね。恐いよね、、、
けど、少しでいいから、我慢して。
あなたの怪我を手当したいの、、、」


バサバサッ


「信用できなかったら、私が変なことしたら私のこと傷つけていいから。
お願い、少しの間で良いから、触ることを許して、、、!」


そうして、私が必死に説得していると、音がやんだ。

恐る恐る顔を上げてみると、真紅の鳥が私の顔を射抜くように見ていた。

もしかして、、、許してくれた?


「ありがとう。」


、、、、


私は怖いほどの静けさのなか、真紅の鳥の手当をした。

そうして、集中してやっているとあっという間に時が経っていた。


「終わったよ。
触れさせてくれてありがとう。」


バサバサッ


手当が終わると、真紅の鳥は私にありがとう、というように翼を広げて青く広い大空へと飛び立った。

一体あの鳥は何だったのだろうか、、、

なにやら、人の目には見えない神聖な空気を醸し出していたように感じる。

そして、なによりもこんな卑しい私でも、誰かの役に立てたという事実が嬉しかった。


「ど、、、に、、、るの。、、、、、どこにいるの!出てきなさい!!」


そうして幾分かたった頃、お姉様の金切り声が聞こえてきた。
あぁ、また始まる、と思いながら私は現実の世界に引き戻された。
私は、重い腰を上げながらも、あの真紅の鳥のことで後ろ髪を引かれるような思い出この場を去った。