re:Alize(リアライズ)


 瓦礫が落ちてくる。
僕はただ、それが迫って来るのをじっと見つめている事しか出来なかった。
僕は静かに瞳を閉じた。
ただ受け入れただけなのだ。その時がやってくるのを。その、『死』の瞬間が迫って来る事を。
僕という人間は、ここで死んでしまう。
ここで、すべて終わりなのだと───。


そう思った、その時だった。

「………………?」

降ってくるはずの瓦礫が、いつまで経っても落ちてこない。

僕は恐る恐るゆっくり目を開け、瞳を凝らす。
そして、自らの目を疑った。

「…な………………」

 なんと落下してきていたはずの瓦礫の塊が、頭上の空中で、まるで時でも止められたかのようにピタリと停止していたのだ。

「何が、起きて……………」

 もはや言葉が出ない。
僕は自分の目を疑った。頭を。そして常識を。
しかしここは夢でも無い。僕は本当にどうにかしてしまったのか。はっと気づいて辺りを見回す。信じられないことに、周りの空間も停止していた。これは比喩や誇張でも何でもなく、本当に『停止』していた。僕の周りが。いや、というよりかは、僕を取り囲む全ての空間がと言った方が正しいのかもしれない。

「………………」

 冷静になろうとするが、当然なれるわけも無い。僕は動揺していた。今この目の前で起こっている事の全てが、自分には信じられなかった。


 すると辺りが突然、ふわふわとしたゆるやかな光に包まれ始めた。その光はまるで、僕の周りを覆うように、そして包むように増えていく。やがて一帯がやわらかで真っ白な世界へと変わっていった。

「いったい何が…」

 起きてるんだ?そう口にしようとした瞬間、突然背後から

『こっちだ』

そう声をかけられた。

「!」

 僕は反射的に声の方を振り返った。そして、目の前に現れた『ソレ』と対峙した。
 そこには白い鎧をかぶった人ならざる者、『怪物』がいた。外見は白い中世の鎧にも見えるが、その獣のような顔つきでひと目でそうでは無いとわかる。そしてその纏っている鎧はまるで骨格のようにも見え、辺りに漂うオーラのようなものから湧き上がるエネルギーを感じる。
(それと腕組みをしてこちらを見ようともしないその偉そうな態度に、若干ではあるがイラッとしたような気がする。)

 一目見た時にそれが、人間で無いことはすぐにわかった。しかしなぜか、ぼくは不思議とそれが『敵だ』とか『危険だ』などとは思わなかった。むしろ、今初めて見たにもかかわらずまるで味方のような安心感さえ覚えてしまったのだ。

「誰だ……?」

自然と口が動いていた。『ソレ』は答えた。

『名など無い……』

僕はさらに聞き返す。

「じゃあ何だ?目的は?いったい何がしたいんだ」

やはりまだ動揺しているのか、同じ言葉が口から出てしまう。

『…………』

しかしその質問に『ソレ』が答えることは無かった。返事を待ってみても、答えはかえって来ない。痺れを切らした僕がもう一度聞こうとしたその瞬間、『ソレ』が突然話し始めた。

「…………おい、」

『時間がない。手短に話す。』

「なに?」

『いいか、この力はお前に託す。』

「な、なんだと?」

そいつはふと、僕の左手に目をやった。
僕はそこで、今初めて自身の左手に何かを握っていることに気がついた。

「……………」

ゆっくりとその手を開いてみる。すると白銀の光を放つ、まるで結晶のようなものが出てきた。

「なんだ…?これは…」

『それはチェインだ。』

「チェイン?」

『あぁ、そうだ。俺はそれを守る為に必死でここまで戦ってきた。だが今の戦いで、この体にとても深い傷を負ってしまってな。もうこの体を保つ事さえ出来ないだろう。』

「ちょ、ちょっと待てよ!急に言われたって、こっちは何が何だかさっぱり…」

焦って話を止めようとする僕を気にも留めずに、『ソレ』はさらに話し続けた。

『俺はもうここまでだ。だから今度は、お前が俺の代わりに戦え。』

「なっ……」

『俺の力を貸す。だから今度はお前が、その力を使ってそいつを守ってやってくれ。』

言葉の出ない僕に、畳みかけるようにそいつは話す。

『お前しかいないんだ。もう時間がない。こうしてお前の精神にしがみついているだけで精一杯だ。』

気づけば周りを覆っていたまばゆい光が消えていき、だんだんと元いた世界の風景へと戻りつつあった。


 そいつは腕組みを解き、まるで別れを告げるかのように話し始めた。

『もう時期俺も、こうして話す事さえ出来なくなるだろう。最後にしてやれる事と言えば、今こうしてお前に力を託してやれるぐらいだ。』

最後なのを察した僕は、それまで頭の中で整理していた事の全てを取っ払い、最後に一つだけ、ただ自分の中に生まれた『純粋な疑問』を聞いてみる事にした。

「なんで……」

『…?』

「なんで僕なんだ?」

『勘違いするな…俺がお前を選んだんじゃない。
お前が、俺を選んだのだ。』

そう言ってそいつは、白い光とともに消えていった。
やつが消えたかと思われた瞬間、頭の中で最後に、やつの声が聞こえたような気がした。

『安心しろ…俺はいつだって、お前を見守っている…』




はっと気がついて、思い出したかのように上を見る。
停止したと思っていたまわりの世界が、突如再生されたかのように動き出す。そしてそれは、僕の頭上を覆い隠していたあの巨大な瓦礫の塊も当然例外ではなかった。


ゴオォオオオオオオオオォオオオオオオ!!!!


巨大な瓦礫の塊が、大きな音を立てながら僕めがけて落下してくる。

「~~~~~~~~ッッッッ!!!!!!」

声にならない悲鳴を上げたかと思いきや、凄まじいほどの轟音とともに僕の意識はそこで途切れた。




………




『…………て…………』

どこからか声が聞こえてくる。

『……きてください、巫狩(いがり)さん……』

どこか遠くから、ぼやけてはいるが確かに自分を呼んでいる声。その声はだんだんと明瞭になっていった。

『起きてますかー?起きてくださーい、巫狩さーん。』

(う……うるさいな……誰だ………)

漂うような夢の中から、僕はまるで悪夢から解き放たれるように目を覚ました。

「う………」

「あ!目覚ました?巫狩さーん、聞こえてますか〜?」

(だ、誰だこの人………)

 僕が目を覚ましたのは、病院のベッド…という訳ではなさそうだった。確かにベッドはあるしそれっぽい機材もそこらに見えるが、床や部屋の色が黒い。黒い部屋の病院なんて聞いたことがない。
寝起き早々そんな事を考えていると、先ほどまで僕を呼んでいた声の主が突如目の前に迫ってきた。

「巫狩さん?目が覚めたみたいですね!いやぁ~よかった、そろそろ目が覚める頃かとは思ってましたけど、あまりにも起きないから心配で心配で…」

看護師、ではない。見たことも無いスーツを着用し、明るみがかった緑髪を団子状にまとめ、赤いふちのメガネをかけたこの女性。口調のせいなのか、なんだか抜けている印象を受ける。どうやら夢の中で僕を呼んでいたのはこの人のようだ。

「…あ、あの、誰ですか…?」

眠っていたからか、上手く声が出せない。
緑髪の女性が答えた。

「あ、私ですか?申し遅れました私、地球外生命体特務捜査対策本部、情報操作管理室室員の長野ちせと申します。」




「…………………。」

今、この人…………なんて言った?

「あ、聞こえませんでしたか?もう一度言いますね。私、地球外生命体特務捜査対策本部の……」

またしてもその人が話し始める。

(この人……いま…間違いなく………)

「管理室室員の……」

「あの、いま……地球外……生命体って……」

「…?あぁ!そっちでしたか!そう、ここはEST。つまり地球外生命体特務捜査対策本部の中、EST本拠地の中なんですよ!」

「……!」

(ま、まさか………いや、直感でもしかするととは思った。だがしかし、まさか本当にここが、あのESTの本拠地内だとは…)

言われてみれば、なんとなく分かる気がする。
病室の雰囲気も普通でないと言われれば、普通ではないし(そもそも部屋自体が黒いし)、妙に人の気配がないような気がするのも納得だ。

驚きで声を出すことすら出来ない僕を差し置いて、長野さんは事の経緯を話し始めた。

「あなたは、都内のショッピングモール内で起きた大きな損壊事故に巻き込まれて、しばらく意識を失っていたんです。未だ原因は不明ですが、とにかく現場内はすごかったらしくて。しかも巫狩さんの発見された場所はさらに損傷が激しくて、めちゃくちゃだったんです。それなのに当の巫狩(いがり)さん自身は全くの無傷。」

そう言いながら彼女は懐から、何やら黒い機械のようなものを取り出した。

「あの…なんですか…?これ…」

「これはSFDです。」

「SFD…?」

「はい!そうです。特殊異分子探知装置と言って、 地球にない異分子や未知のエネルギーのような物をこれで探知するんです。一年前に、海から巨人が出てきた〜って事件、ありましたよね?知ってますか?」

「まぁ……なんとなくは、知ってますけど…」

「実はその時、あの巨人が現れた場所から、地球のものとはまったく別の新しい未知の物質が検出されたんです!」

「なっ…そんな…」

「しかもあれから一年が経ったというのに、なんとその物質については未だ未解析のまま!謎に多く包まれた彼らを研究するのはほぼ不可能に近いのではないかと思われていたその時、とある一つの事が判明したんです。」

「とある一つの事?」

「ええ。なんと彼らが出現する所にはですね、あの青い巨人と同様、その時検出された未知の物質がほぼ確実に、その場に落ちている事が判明されたんですよ!」

「そうか、なるほど……ん?ちょっと待ってください」

「?」

長野さんが首を傾げた。

「一体なんでしょう?」

「彼らって言いませんでしたか?地球外生命体の事を、彼らって…」

「……………あ、」

「他にもいるって事ですか?地球外生命体は、実はあの巨人だけではなくて、まだ他にもいるって…」

「あ、えーっと……」

 分かりやすく目を逸らす長野さん。この人多分嘘がつけないタイプだな。

「じ、実は、この事はまだ機密事項なんです…だから…他の人には、言わないで…ね?」

そう言って、長野さんは懇願するような目で頼み込んでくる。

(ね?って………)

あまりの強引さに苦笑していると、長野さんは慌てて話を戻し始めた。

「そ、そそ、それで生まれたのが、このSFD!この機器の中にその未知の物質を入れることで、同じエネルギーや同じ周波を放つ物を探知する事が出来るんです!」

「これを事故現場や怪しい所に持っていくと、ゾディアックがその場にいたかどうかが判断できるようになったんですよー?!」

 もはやすごいでしょと言わんばかりに、長野さんがSFDを掲げる。もうかける言葉もない。

「…………………。」

「あっ、そうだ!それでなんですけど、なぜ巫狩さんがここに連れてこられたかというと」

「?」

「実はそのSFDの反応値が、巫狩さんに対してものすごい数値で反応したんです!」

「え?僕にですか…?」

「はい。さっきも言ったとおり、巫狩さんの見つかった所は損傷が激しくて滅茶苦茶だったんですけど、巫狩さん自身には全くの傷一つすらついていなかったんです。しかも瓦礫だらけのその中で巫狩さんにだけ、ものすごい勢いでこれが反応したらしくて…」

「そ、そんな……」

 そんな…とは言いつつも、僕は驚きの心とは裏腹に自身の脳裏には『あの出来事』がよぎっていた。

『俺はいつだって、お前を見守っている…』

「………。」

 僕の身に何かあったとしたら、間違いなくあの事だろう。いや、むしろあの出来事以外に何かがあったとは思えない。

(あの事を言うべきか、言わないべきか…)

そう考えていたら、まるで長野さんが知っていたかのようにこう言った。

「もしかして…何かあったんじゃないですか…?」

「たとえば…事故の瞬間に…何かあった、とか」

「!?」

(表情には出していなかった…まさか悟られたか?まさか……そこまで鋭いような人にも見えなかったが…)

まさかの出来事に動揺していた僕だったが、それに続くように長野さんは、衝撃的な事実を口にしたのだ。

「実は、巫狩さんだけじゃないんです…。事故に遭われた方は…。」

「えっ…!?」

「あと二人いて、実は巫狩さんと同じぐらいの年齢の子なんですけど……」




 長野さんは話した。あの場所で僕以外にも救出された二人の生存者の話を。あの事故で、僕とまったく同じように、『奇跡的な状況』で助かって、SFDが『異常なほどの数値』を示した、二人の高校生…。


そう、僕の『二人のクラスメイト』の話を。







コツ、コツ、コツ、コツ……。

 薄暗い廊下に二人の足音が響く。あの後長野さんには一通りの経緯を話し、後の説明は別室でされるという事になった。彼女が言うには、どうやらこの先の部屋で『あの二人』が待機しているらしい。僕は謎の緊張を抱えながら部屋へと歩いていた。すると突然、長野さんが思い出したかのように喋り始めた。

「あ!そうだ!忘れてた」

「…?何がですか?」

「実はですね、巫狩さんが救出された時に左手に何かを強く握っていたんです。それについては何か心当たりがありますか?」

「あ…そういえば」

 事故といい起きてからといい、あまりにも色々な事が一瞬で起こっていた為か、つい忘れていた。
それにしても、守ってくれと言われたばかりなのに早速忘れているとは…。いくら忙しかったからとはいえ自分の不甲斐なさが情けない。

「…実は、SFDが反応したのは詳しく言うと巫狩さんだけじゃないんです。」

「え?」

「巫狩さんが握っていた物にも、実はSFDが反応してたんです。しかも相当大きい数値だったみたいで。」

 そこまで言われてようやく僕は、自分があの『チェイン』というものを持っていない事に気がついた。
僕は長野さんにこう聞いた。

「あの、あれはどこにあるんですか?大事な…大事な物なんです。僕が、絶対に守らなきゃいけない物なんです。」

 そう自分で言っておきながら、自らの口から『絶対に守る』なんて単語が出た事に自分自身で驚いた。
長野さんは答えた。

「あれは、とても大切な所に保管しています。」

「大切な所?」

「えぇ。とても警備が厳重な所ですよ。なにせあれは相当数値が大きかったですからね。一定の調査を終えるまでは返却するのは難しいと思います。」

「そんな…。」

僕は続けざまに聞いた。

「どうにかならないんですか?あれは、僕が持っていなきゃいけない物なんです。なんとか取り返す方法はないんですか?」

「うーん…あの状況で、そのままと言う訳にもいかなかったし…今は流石に難しいと思います。さっきも言いましたが、ウチには情報がないんです。一つの手掛かりでも欲しい状態で。やっぱりある程度の研究はしないと、すぐに返すっていうのは難しいんじゃないかな…。」

「そ、そうですか……。」

 なぜか少し落ち込んだ僕を見て、長野さんは慰めるようにこう言った。

「大丈夫ですよ…。研究と言っても一通りの調査をするだけです。さっきも言いましたがあそこは厳重な所です。誰かに取られたり、壊されたりなんて事はないと思います。調査さえ終えて問題がなければ、すぐにでも返してもらえると思いますよ。」

「………。」

 謎の不安感に言葉を出せずにいると、長野さんの「あっ!」という声とともに、一筋の光が差し込んできた。開きかけたドアから白い光が漏れている。
どうやら、目的の部屋はもう目の前のようだ。

「見えてきました、巫狩さん。あの部屋です。」

「あの部屋に、二人がいるんですか?」

「えぇ。待っていると思いますよ。さっきも言った通り、巫狩さんの事は二人には説明済みです。」

ドアが目の前まで迫ってくる。

「……………。」

(この先に…あの二人が……)

僕はドアノブに手を掛け、扉を開いた。

「ッ!」

 視界いっぱいに、白い光が飛び込んでくる。
薄暗い廊下から急に明るい部屋に入ったからであろう、あまりの眩しさに一瞬目が眩んだが、すぐに視界は部屋の明かりに慣れていった。
部屋の全貌が見えてくる。大きな食堂のような部屋に、二人の男女が左右に別れて座っていた。
右にいる男は驚愕のあまり、椅子を立ちかけている。

「おいおい…マジかよ…」

 暗めの緑髪にメガネをかけ、驚いた表情でこちらを見ているこの男は小川慶二。僕のクラスメイトの一人だ。大親友というわけではないが、暇な時にお互い話したりするくらいには友達だ。
小川の表情から見るに、どうやら三人目の話はされていたが、誰かとまでは言われていなかったようだ。

 次に向かって左。肩に付くぐらいの青い髪に凛とした雰囲気を感じさせるこの女性。
小川のように立ち上がるほどではないが、驚いた表情でこちらを見ている。
 この人の名前は水野蒼。この人も小川同様、僕のクラスメイトである。

「これから説明しますので、巫狩さんは前の方に適当に座ってください。」

「わかりました。」

とりあえず適当な席に座ろうとすると早速、興奮した小川が声をかけてきた。

「おいおい、まさか三人目の高校生ってお前だったのかよ!?」

小川の妙に興奮したテンションが鬱陶しかったので、僕は若干流し気味に返した。

「僕だって、最初に二人の名前を聞いた時はびっくりしたよ。」

「すげぇ~~~…マジでコレ、なんかの運命とか感じるよな!?だって普通有り得なくね?おんなじ学校の、しかも同じクラスの人間が、一気にこんな場所に集まるか?絶対なにかの陰謀だってこれは!」

小声でまくし立てるのがうるさかったので、僕はとっとと前の方の席に座った。

 僕が席に座ったのを確認すると、長野さんはコホンと一つ咳払いをし、説明を始めた。

「えーそれでは私から、皆さんをここにお連れしたこれまでの経緯を説明させていただこうと思います。」

 長野さんがこれまでの経緯を話してくれた。今日の昼頃、僕らのいた大型ショッピングモール『イラザ』で原因不明の崩落事故が起きたこと。そこにいた三人の高校生が奇跡的に救出され、何らかしらの影響を受けたのではないかとされていること。そしてその高校生全員が、同じ学校の同じ学年に所属していた人物であるということ。

「ここまでが、今現状我々がわかっている事の全てです。皆さんのことは先程、私が一人一人お話を聞かせてもらい親御さんに連絡させていただきましたので、その点は心配なさらないで下さい。」

長野さんが続ける。

「さて、これから先は皆さんに協力してもらわなければならない事です。先ほどにも説明したとおり、皆さんが救出された際にこちらのSFDで計測した所、通常とは大きくかけ離れた大幅な数値が見られました。
 よって皆さんには、これから身体検査を受けて頂きます。その為にはまず検査を受けるにあたって同意書を書かなければなりません。同意が頂けた方から身体検査を始めます。その後にいくつかの精密検査、医師による質疑応答があります。」

突然の身体検査に、ついうっかり小川が声を漏らしてしまった。

「えぇーーっ!?そんなのやるの!?」

「はい。残念ですが、SFDがあんな大きな反応値を示した以上、皆さんには精密検査を受けていただかなければなりません。ご了承ください。」

(まぁ…当然っちゃ当然だな。)

そこまで話していた所で、水野さんが質問した。

「学校は?学校は…どうなるんですか?」

「その点につきましては検査の後、こちらから説明させていただきます。」

「…?」

(検査をして終わり…じゃないのか?)

 一瞬不思議に思った僕であったが、とりあえずの所は一旦検査が終わるまで流すことにした。そうして僕らは、ESTの精密検査を受けることになった。







 ESTでの身体検査を終えた僕らは、再びあの食堂の部屋へと集まっていた。

「巫狩!どうだった?お前はなんか無かったのか?」

 やや興奮が冷めきらないといった風に話しかけてくる小川を上手くかわしながら、僕らは長野さんを待った。

……………。

(しかし、来ないな…。)

それなりに時間が経ったと思うが、未だに長野さんが来ない。検査の事でなにか話してるのだろうか。

(そういえば……)

検査の前、学校のことで説明があると言っていたな。これから何を話すのかも気になる。ふと、時計に目をやる。時計の針は17時半を指す頃であった。

(もうこんな時間か……。目が覚めたのが15時半だっとして説明を受けたのが16時だったから、僕らは1時間以上検査をしていた事になるのか…。)

そんなことを考えていると、長野さんがやってきた。

「お待たせいたしました。」

長野さんが、前に立って説明を始める。

「皆さんの詳しい検査結果は、また後ほどお伝えします。」

小川が答えた。

「後ほど?」

「はい。皆さまにはこの間に、これから先の事を説明しなければなりません。」

水野さんが聞く。

「先の…事?」

「はい、そうです。まず皆さんにはこれから先…」

 そこから先の長野さんの言葉は、僕たちの想像していた言葉なんかよりも、遥かに思いがけないものであった。

「まず皆さんにはこれから先、一定の期間が明けるまではESTの監視下に置かれるということを認識しておいて下さい。」

「ESTの………」

「監……視下?」

その場にいた僕ら三人ともが、一体長野さんが何を言いたいのかさっぱり分からなかった。

「そうです。検査の結果、皆さんの体にとくにこれといった異常は発見されませんでした。しかし今日の事故で、皆さんの体になんらかしらの異変があったのも事実です。実際、検査の途中に何度かSFDで皆さんの数値を測定しましたが、やはり数値は下がっていませんでした。」

「なっ…い、いつ測ったんですか!?」

「EST内にある精密機器の大半が、じつはSFDの機能を搭載しているんです。皆さんが精密検査をしてる際に、同時に測っていたんです。」

「そうだったのか……」

「という訳で皆さんは本日から、各々の安全を守るためにも、ESTの監視下に置かれることになりました。」

水野さんが質問する。

「監視下って…私たちはどうなっちゃうんですか?」

「安心してください。特に皆さんの体をどうこうしようと言うわけではありません。しかし、SFDであれほどの数値が出ている今、異常がないからと言ってすぐに家に帰す訳にもいきません。皆さんにはしばらくEST内で生活していただき、経過を観察させていただこうと思っています。」

「そ……そんな…………」

あまりにも突然の話だったのでショックだったのだろう。水野さんが口を抑えている。

「………………。」

(そういう事か……。さっき学校の話をされたのにわざわざ後回しにさせたのは、『コレ』があったからなんだな…)

そう一人で納得していると、今度は小川が口を開いた。

「か、観察って、俺らは一体どうなっちゃうんですか?!が、学校は?どうしたらいいんですか!?」

やはり、あまりにも突拍子のない話だったので相当焦っているのだろう。小川も焦った様子で質問した。

「観察、といっても皆さんの体に直接何かをするわけではありません。EST内にある生活用スペースで、皆さんには過ごしていただきます。」

僕は質問した。

「期間はどれくらいなんですか?」

「それが、今のあいだはまだなんとも…。長くなるかもしれないし、もしかすると数値の変動によって短くなるかもしれません。そればかりは、今後の様子を見てみないことには…」

「それと……」

長野さんが続けて話そうとしたその時だった。


コツ、コツ、コツ………。


「…………?」

(今のは………。)

小川が後ろを振り向いた。

「…?なんだ?」

僕らの来た方向から聞こえてくる。これは、間違いなく………。

「…足音だ。」

それも複数。こっちに向かって一直線に近づいてくる。すると、長野さんが待っていたかのようにこう言った。

「やっと来た……みたいですね。」

ガチャンと音を立てて、ドアが開かれる。
僕もゆっくりと後ろを振り返った。

 ぞろぞろとドアから、黒いスーツを着た謎の男女四人が入ってくる。
前から、金髪の女。
オレンジ色の髪をした短身の男。
熊のような体つきに鋭い目付きをした長髪の男。
そして最後に、細身の青髪の男が現れた。

オレンジ髪の男が口を開いた。

???「おーおー、こいつらかぁー?例の高校生ってやつはよぉ」

青髪の男が宥めるように答える。

???「ちょっと、やめてくださいよ。あんたから話し始めたら僕らの印象が悪くなっちゃうでしょう。」

???「はぁ~~?それどういう意味だよ?」

まるで聞こえていないのか、熊の男は動じることなく黙っている。

???「………………。」

最後に、金髪の女が口を開いた。

???「やめろお前ら。下らん会話はするなと言ったはずだぞ。」

それを機に、二人とも黙ってしまった。

???「………。」

???「………。」

四人が僕らの横を通る時、金髪の女と目が合ったような気がした。


???「…………。」


(……………。)


四人が前に出揃うと、長野さんが話しはじめた。

「ええーっと。それではご紹介します。」

「本日から皆さんがお世話になるEST直属の特殊部隊、その名も『ゾディアック対策本部最高機密特殊部隊』、通称ZAQ(ザック)の皆さんです。」





 今思えばこの時から、僕の未来は変わり始めてたのかもしれない。

…この、運命を変える出会いの瞬間から。





後書き

・巫狩 イツキ (いがり イツキ)
年齢…16歳
誕生日…2月20日 (うお座)

好きなもの…静かな場所、動物
苦手なもの…うるさい場所、辛い物、人混み

最上沢高校の2年生。高校に入る前までは別の町にいたが、高校に進学する際にこちらに引っ越してきた。
同級生の小川慶二とは時間が合った際に話したり、学校の事を共にやる仲ではあるが、そこまで仲がいいとは思っていない。早生まれ。


・小川 慶二 (おがわ けいじ)
年齢…17歳
誕生日…7月2日 (かに座)

好きなもの…楽しい場所、CD集め
苦手なもの…細かい作業、怖い物

最上沢高校の2年生。楽しい事をするのが好き。基本的に誰とでも接する事が出来て、友達からはよく名前を省略されて『オガケイ』などと呼ばれている。大体金欠気味。最近家でウサギを飼い始めた。


・水野 蒼 (みずの あおい)
年齢…17歳
誕生日…5月4日 (おうし座)

好きなもの…和菓子、綺麗なもの
苦手なもの…しつこい人

最上沢高校の2年生。凛としていて、比較的落ち着いた雰囲気を放っている。面倒見が良く手先が器用なため、よく友達などに頼られたりするが、実はあまり快く思ってはいない。ちなみに辛いものもいける。