re:Alize(リアライズ)


前書き


セス(被検体)
…
第七話参照。
突如EST内に侵入して来た透明の生命体。学習能力が非常に高く学習さえすれば人の姿に変化する事も出来る。パソコンに十数秒触れただけで1000を超える知識を一気に取り込み、およそ24ヶ国程の言語を話せるようになる。その後はEST内にある研究棟に保護され、巫狩と仲良くなった。巫狩自身、セスの事を『唯一心を許して話せる存在』として認識しており、二人の関係は親友であると言っても過言では無いだろう。




ガチャ…

薄暗い空間の中、静かに玄関の扉が開かれる。

巫狩(いがり)「……。」

学校から帰宅した巫狩に気付き、とある人物が声を掛けた。

母「──あ!イツキ、おかえりなさい…。」

気付いた人物、それは巫狩の母親だった。

巫狩「……ただいま」

母「学校、どうだった?」

巫狩「特に何とも無いよ。別に問題ない。」

横目に答える巫狩。その視界は母親を捉えてはいない。

母「そ、そう…。」

巫狩は母親に目もくれず、そのまま自分の部屋へ向かっていく。

巫狩「…………。」

母「…………。」



EST本拠地内───。


水野「あ、レオネルさん。」

レオネル「無(む)?今日は学校じゃないのか?」

水野「今の時期、二年は早帰りなんです。」

レオネル「そうなのか…。あの二人は?」

水野「小川は補習で居残り中。巫狩くんは、そのまま帰ったみたいです。」

レオネル「そうか。…そういえば、翔太郎君と伏見さんは何をしているのか知ってるのか?」

水野「それは…。言われてみれば、確かに知らないかも…。」

水野「普段何してるんだろう…。」



都内、最上沢高校、放課後───。


三神「おーい、翔太郎。先行ってるからな〜。」

翔太郎「オーウ。」

 ホームルームが終わり荷物を纏めていると、翔太郎のもとに一人の友人がやって来た。

???「翔太郎。」

翔太郎「…竹本。」

竹本「今日は来れそうか?」

翔太郎「え?あぁ…。大丈夫〜…かなぁ?」

翔太郎は自信なさげに目を逸らす。

竹本「ははっ。何だよ、それ。」

竹本「…先行って待ってるぞ。」

そう言うと竹本は再び教室を出て行ったのだった。

翔太郎「あ…オウ。」

翔太郎「………。」



巫狩、自宅にて。


少し荷物を纏めて、家を出る準備をする。
玄関で身支度をしていると母親がそれに気が付いた。

母「あ!今日もまた向こうで寝るの?」

巫狩「…うん」

母「夜ご飯、作ったんだけど…向こう行く前に食べてかない?」

巫狩「……わかった」


…


EST本拠地内、日没───。


クレイ「…!」

クレイ「今日もまた、こっちへ泊まるのか?」

 本部に書類を提出しに行く際、クレイは少量の荷物を持った巫狩とすれ違った。
 実はこういった事は過去にも何回かあり、巫狩がこちらへ泊まろうとする所はクレイも何度か目撃済みであった。

巫狩「えぇ。」

クレイ「そうか。」

クレイ「……。」

クレイ「私で良ければ、話でも聞こうか?時間もあるし…。」

巫狩「あぁ、いえ…。別に何かあったと言う訳では無いんです。心配してくれるのは嬉しいんですが…。」

クレイ「…そうか。済まなかったな。」

巫狩「いえ、それでは…。」

そう言うと巫狩は、向こうを向いて歩き出した。

クレイ「………。」

巫狩の背中を少し見送ると、クレイも自分の目的の方向へと向き直り歩き始めた。



自室のベッドに横になり、巫狩は考えていた。

(……………。)

母親の事、クレイの事…。
そして自分の過去について。

巫狩「……。」

ギシッ…

巫狩は静かに瞳を閉じて、眠りの世界に落ちていった。





最上沢高校、昼───。


友達「蒼(あおい)~~!!」

水野「わっ。何、どうしたの?」

友達「この前やった歴史の所ノート写すの忘れちゃっててさ~~。蒼(あおい)~、見してくんない?」

水野「忘れちゃっててって言うか、どうせまた寝てたんでしょ~~?」

友達「えぇ~~?そんな事ないよぉ~。」



男子生徒「小川ー。」

小川「ん?何?」

男子生徒「この後放課後に皆でカラオケに行く事になったんだけどさ〜。小川も行かねぇ?」

女子生徒1「ムリムリ。小川どーせ今回も金欠だから。」

小川「フッフッフッ…。それが何と…。」

女子生徒1「え?何?」

女子生徒2「嘘?マジ??」

小川「今回はあるんだなぁ~~~~!!!!これが!!!!!」

女子生徒1「えぇ~~~???嘘ぉ~~~???」

女子生徒2「えぇ~…。珍し…。」

男子生徒「じゃあ〜今回は小川の奢りって事で。」

女子生徒1「ありがとうございまーす。」

女子生徒2「あざまーす。」

小川「なっ…ハァ!?何でそうなるんだよ!!てかそんな持ってねーし!!」


水野「フフッ…。」

遠目に小川のやり取りを見て、微かに笑う水野。それらを見ていると、ふと教室端の巫狩の方に目が止まった。

水野「…!」

巫狩「………………。」

巫狩は、次の移動教室の為に教材をまとめて教室を出て行く所であった。

水野「…………。」



EST本拠地内───。


 辺りが完全に暗くなった夜、巫狩は昨日のようにESTの自室で横になっていた。

巫狩 (…………。)

思うように寝付けない。いくら瞼を閉じても一向に眠れないので巫狩は仕方無く体を起こし、自室を後にしたのであった。



何を考えるでも無く、巫狩はただ無心で本拠地内を歩いていた。

巫狩 (………。)

???「…何してるの?」

そう背後から声を掛けられた。

巫狩「……。」

ゆっくりと後ろを振り向いて、その声の主を確認する。

巫狩 (…………。)

声の正体はセスだった。



 クレイは昨日と同じように、本部に持って行く資料を持って本拠地の中を移動している途中であった。

クレイ「……!」

ふと窓の外を見ると、被検体のセスと巫狩が二人で歩いているのが目に入る。

クレイ (…………。)

そんな時、クレイの横を研究棟の職員二人が通り過ぎた。

研究棟の職員1「──でね。その時の痕跡が、この前水族館で起きた事件の時とまるっきり一緒なんだって。」

研究棟の職員2「嘘〜!じゃあまたおんなじ様な事が起きるんじゃ…」

クレイ「…!」

クレイ「なぁ、良ければその話、詳しく聞かせて貰えないか?」

研究棟の職員1「え…あ、あぁ。実は、この前水族館で起きた事件と全く一緒の痕跡が近くで見つかったらしいんです。正確な場所までは、まだ分かってないんですけど…」

クレイ「…何?知らないのか?」

研究棟の職員1「あっあぁ!すみません!噂で聞いた話なので、深くは知らないんです。でも近くなのは間違いないそうで…。」

クレイ「そうか…。わざわざ引き止めてしまって、済まなかったな。」

研究棟の職員1「いっいえいえ!それでは。」

そう言うと、二人の職員は去っていった。

クレイ (……………。)

クレイの脳裏にはあの水族館での事件が甦っていた。

クレイ「……。」

少しすると、クレイも自分の目的の方向へと再び歩き始めた。



二人は、言葉を交わすことなく夜のESTを歩いていた。

巫狩「………。」

セスが口を開く。

セス「珍しいね、こんな時間に出歩いてるなんて」

巫狩「…別にいいだろ、たまには」

セス「………。」

ほんの少し黙ると、セスは再び話し始めた。

セス「…ねぇ、覚えてる?イツキ君と最初に会った時の事。」

巫狩「最初?どこから来たかって話?」

巫狩「……!」

気づけば巫狩は、二人が初めて出会ったあの時の中庭にいつの間にかたどり着いていた。

巫狩「…………。」

セス「…実は、覚えてるんだ。」

…

『体は今より何倍もちっちゃくて、』

『周りはみんな、きらきらしてる。』

『僕らはどこかを泳いでいて、』

『どこへ向かっているのかは、わからない。』

『でも何でかそれが、すっごく落ち着くんだ。』

…

セス「僕が覚えてるのはここまで。」

セス「これが、僕が覚えているたった一つの記憶。」

セスはゆっくりと話し始めた。

セス「『心にしまっておきたい事』って、あるでしょ?」

セス「今話したのが、ぼくの秘密。」

セス「秘密とは、ちょっと違うかもしれないけど。」

そう言って、セスは少し下を向く。

セス「…話してよ。イツキ君の事。」

セス「何か…あったんでしょ?」

そんな事を言いたげな目で、セスは巫狩を見つめた。

巫狩「………。」

巫狩「…僕は、ハッキリと覚えてる。」

巫狩はここに来るまでの全てを話す事にした。

中学校を卒業するまでは別の町にいた事。それまでは自分にも父親がいた事。そして、その父親に暴力を振るわれていた事。

巫狩「…………。」

巫狩は、ゆっくりと口を開いた。

…

『オラァッ!!オラァッ!!』

巫狩「───ッ。ッ。」

その父親、と言っても本当に僕の父親なのかは分からない。

とにかくソイツは僕が生まれた時から、僕の近くにいた。

『オラァッ!何でそんな事も出来ねぇんだよ!』

巫狩「───ッ!!」

ガンッッ!ガンッッ!!

ソイツは、何かとあると僕にこうして当たった。
気に入らないことがあった時。
むかつくことがあった時。
虫の居所が悪い時。
暇な時。

理由は何だって良かったんだと思う。
とにかく、僕に当たれればそれで。

僕が笑ってる時も、泣いてる時も。
黙ってる時も、反抗的な時も。

結局、理由なんてどうでもいいのだ。

ちなみに母親の方はというと、ただ静観しているだけであった。

『オラァっ。オラァッ。』

巫狩「……ッ。…ッ!」

巫狩「……!」


母親「…………………。」

幼い僕を見る母親のその目。
その目は、僕の脳裏にしっかりと焼き付いた。

今となっては意味の無い話だが、もしここで万に一つでも母親が庇ってくれたりそのような素振りを見せてくれでもしたのならば、僕も子供なりに全身を奮い立たせて庇おうとしたり、まだ同情の余地があったのだと思う。

しかし、それももはやなんの意味も持たない。

母親の『ソレ』が愛情とは程遠い存在である事など、子どもの僕でも理解するのはそう難しい事では無かった。

巫狩 (…………。)

その目を見た時、僕は心の底で諦めてしまっていた。
諦める方が楽なのだと気付いてしまったのだ。

巫狩 (…………………。)


僕の心は、そこで折れた。
僕の心はそこで、生きる事を諦めてしまったのだ。

しかし、本当に苦しいのはその先だった。

『おいッ!!このクソガキがァッ!!!』

ガンッ!ガンッ!!

巫狩 (…………………。)


痛みを拒む事を諦めると、今度は後悔と苦しみが僕の心を襲った。

苦しみを飲み込んで毎日を耐えて生きているはずなのに、いつまで経っても後悔と自責の念だけは僕の心から消えなかった。

心は何度も死んでいるはずなのに。
心は何度も折れているはずなのに。

喜びなど一つも感じない癖に、痛みだけは何度も、繊細に感じ取れるようになってしまっていた。

僕は、自分自身が許せなかった。


しかしそれでさえも、どんな痛みでさえも時間が経てばどうでも良くなる。

もう、何が起ころうが僕には関係なかった。


巫狩「もう、どうでも良かったんだ───。」

気付けば、巫狩の目から涙がこぼれ落ちていた。


セス「…………。」

そんな時だった。進路を決める中学二年の秋に、やつが突然姿を消したのだ。

家の中、街の通り、行きつけの場所…。
いつまで経ってもやつが現れることは無かった。

突如として、町からまるっきり姿を消してしまったのだ。

母親から引越しの話を持ち掛けられたのもちょうどその時だった。

内容は、都内に良い立地のアパートがあるからそこに二人で住まないかという話だった。


そして僕は、ついに町を出た。

…

巫狩「……もう、分からないんだ」

巫狩「どうしたらこの痛みが消えるのか、僕には分からない!」

涙が溢れ出していた。

巫狩「何をしても自分が許せなくて…ッ!」

巫狩「何をしても、心から楽しいと思えない…!」

巫狩「もう嫌だ!もう嫌なんだ!!」

巫狩「もう…こんなの……ッ。」


巫狩「────ッ!?」

巫狩は、突然自分を包んだ謎の体温に一瞬理解が追いつかなかった。

それが、セスの体温だと言う事に気付くまでは。

巫狩「………ッ。」


セスが、突然巫狩を抱き締めたのだ。

セス「……大丈夫。」

巫狩「………」

セス「大丈夫だよ。だから……」

セス「……もう、そんな顔しないで。」

巫狩「…!」

巫狩「うん……」

巫狩「うん………っ。」

またも巫狩の目から涙が溢れ出していた。しかし、もう止めようとはしなかった。

心から泣いていいんだと、思えたような気がした。



セス「……落ち着いた?」

巫狩「………うん。」


サアアァァァァ……

二人の間を爽やかな風が吹く。

セス「──痛みや苦しみは、未(ま)だ消えないかもしれないけれど…。」

セス「…でも、もう安心していいと思うよ。」

セス「その傷が癒えるまで───。」


巫狩「…!」

僕はあの時の言葉を、永遠に忘れる事はないだろう。

セス「…僕がずっと、そばにいるからさ。」

巫狩「……………。」


巫狩「うん……。」

巫狩「…………うん!」





最上沢高校、昼───。

いつもと変わらない日常が過ぎて行く。

巫狩 (………。)

巫狩は、快晴の空に何気なく流れる雲を見つめていた。


EST本拠地内───。


 日が暮れ始める少し前、クレイは昨夜聞いた水族館での一件について調べていた。

クレイ (おかしい…。)

クレイ (昨日聞いた水族館での一件。研究棟を調べても、過去の形跡を調べても、痕跡の話が一切として出てこない。何故だ…?)

クレイ (噂が一人歩きしただけか?それとも誰かのデマか…。もし仮にそうだったとしても、一体何の為に?)

 痕跡の話の出処が見つからないのも一因だが、それ以上にクレイは何か言葉に出来ない不吉な予感のようなものを感じ取っていた。

クレイ (それに何だ?この胸騒ぎは…。)

クレイ (…………。)

クレイ (何かが起こるような気がする…。)

クレイ (何か…。)

クレイ (不吉な何かが…。)

…

同時刻、日が暮れ始める少し前。

 学校から早帰りで帰って来れる為、巫狩は昨日と同じように自室で横になっていた。

巫狩 (………。)

巫狩 (………………。)

巫狩「──ッ。」

眠れぬ焦燥感に堪らず目を覚ます。

巫狩「………。」

体を起こす巫狩。

奇しくも巫狩はその時、クレイと同じように何か不吉な胸騒ぎを感じていたのだ。

巫狩「………何か…。」

起こる気がする、とそう言おうとしたその瞬間。

突然『それ』はやって来た。


ビイイイイイィィィィィッッッ!!!!


クレイ・巫狩「!!」

『それ』はEST内全体に一瞬にして響き渡った。
突如、スピーカーから警報が鳴り響いたのだ。
『それ』は初めて聞く低い男の声でこう続けられた。

『緊急事態発生、緊急事態発生。南西2キロ圏内、小型ゾディアック多数発生。繰り返す。南西2キロ圏内、小型ゾディアック多数発生。本拠地内の職員は、至急現場に急行されたし。』


クレイ「────ッ!」

一番初めに動き出したのはクレイだった。

 それまでに様々な事が頭をよぎっていたクレイであったが、警報が聞こえた途端にその体は任務を遂行するただ一つの道具として本部へ向かって駆け出した。

 駆け出したクレイの頭の中に存在する考えはたった二つ。敵を排除し警護対象を守る為の武器の調達と、任務を遂行する為の部下の召集のただ二つだけなのであった。



プルルルルル……

水野「!」

友達1「それでさ~~。」

水野「あっ!ちょっとゴメン、今日用事あるの忘れてて家に帰んなくちゃだから、また今度ね!」

友達2「ええ~~~?」

友達1「そうなの~~??まぁしゃ〜ないかぁ~。」



プルルルルル……

小川・伏見「!」



プルルルルル……

翔太郎「!!」

三神「だからお前の教え方が下手くそなんだよ!この問題はもっとこうして~」

小野「はぁ?なら教材見ながらやった方が早いじゃんかよ!」

翔太郎「………。」

翔太郎「───ッ。」

翔太郎「わ…悪い!今日やっぱり用事で行けなくなった!」

小野「ハァ~~~??またかよォ~~~!?」

翔太郎「本当にすまねぇ!どうしても外せねぇ用事があんの忘れてた!」

三神「お前…この前もそう言って部活来なかったよな?」

翔太郎「本当にすまねぇ…。でも、どうしても外せねぇ用事なんだ…。」

三神「あのなぁ…」

竹本「…まぁ、いいじゃねぇか。」

三神「!」

竹本「外せねぇ用事なんだろ…な?」

翔太郎「竹本…。」


プルルルルル………。

翔太郎「!!」

翔太郎「…ッこの埋め合わせはちゃんとする!だからすまねぇ!また今度な!」

そう言うと翔太郎はすぐさま駆け出した。

三神「あっ!おい!」

翔太郎は一度も振り返ること無く、そのまま駆けて行ってしまった。


三神「…ッ本当アイツは…。」

竹本「…………。」





意外にも、そこは博物館の近くであった。


ザッザッザッザッ!!


『急げ!急げ!』


黒い装備に身を包んだ特殊部隊が、中へ中へと突き進んで行く。

クレイはそれを黙って見ていた。

クレイ「…………。」

近くに居たゼルが静かに呟く。

ゼル「…珍しいな、まさか特殊部隊の連中も一緒なんてよ」

クレイ「…あぁ。」

言い知れぬ不吉感を抱えたままクレイはそう返事すると、他の部下に集合している人間の確認をとった。

クレイ「レオネル、他のやつらは?」

レオネル「水野さん、小川君、翔太郎君。それに伏見さんも、近くでアリエスと一緒に待機してくれている。」

クレイ「…そうか。」

クレイ「…………。」

クレイ「……後は巫狩だけか…。」

クレイ (……何だ?この不吉な予感は…。)

そう険しい顔をしていると、不思議に感じたレオネルが聞いてくる。

レオネル「?」

レオネル「一体、どうかしたのか?」

クレイ「……何か…」

クレイ「…嫌な予感がする」



そういう巫狩はと言うと、博物館の中庭で一人歩いていた。

巫狩「……………。」



アリエス「巫狩君…見つかりませんねぇ…。」

クレイ「…………。」

アリエス「連絡にも出ないし…」

クレイ (巫狩…。何だ…?)

クレイ (どうして巫狩でこんなにも引っかかるんだ…?)

クレイの胸の内で胸騒ぎが起こっていた。
そしてそれは収まるどころか、だんだんと大きなものへとなっていき───。

クレイ (何か…もう一つ、忘れてるような…。)

レオネル「それにしても、ゾディアックは何処なんだ?襲撃があったという割りには気配一つさえしないぞ。」

アリエス「確かに…言われてみればそうですねぇ。緊急事態の割には、随分静かと言うか…。」

ゼル「…ケッ!何だか変な事ばっかりだぜ!」

ゼル「緊急で来たのにゾディアックはいねェわ、巫狩は何でか連絡つかねェわ、被検体は何故かこんな所にいるしで意味分かんねェわ───」


クレイ「───ッ!!」

クレイ「それ!!本当か!?」

ゼル「うおっ!?うぉぉッッ?!」


ガタガタンッ!!


レオネル・アリエス「!?」

突然のクレイの勢いに押され、思わず後ろへ倒れ込んでしまうゼル。

ゼル「…なん、何だよ──」

クレイ「それ、本当なのかッ!!?」

あまりの勢いに押され、つい驚く暇もなく返してしまうゼル。

ゼル「おッ──お、おう。ここに来る時に、研究棟の奴らが被検体を連れて歩いてる所を見たんだよ。何でかは知らねェけどな…。」

クレイ「─────ッ。」


ふと蘇るあの時の記憶。

クレイの脳裏には瞬時に、あの窓際から見えた二人の話す様子が浮かび上がっていた。

クレイ「………………ッ!!」

その時、クレイの中で全てが繋がったような気がした。


ダッ!!!!


ゼル「!!」

何を思ったのか、突如クレイが反対方向へ駆け出したのだ。

ゼル「ちょっ──。お、オイ!」

味方の制止も問わず、クレイは一目散に駆け出していた。

ゼル「しッ…仕方ねェーな!」

 そう言うと、ゼルは咄嗟に他の仲間にアイコンタクトを取った。『駆け出したリーダーを追う』という事と、『別の場所にいる他の仲間を集めろ』という合図であった。



クレイ「……ッ。」

クレイ (頼む…ッ!間に合ってくれ…ッ!)



巫狩「……………。」

ふと、中庭にある外廊下の所で立ち止まる。

巫狩 (───!)

振り返って見ると、少し離れた先にセスが見えた。

巫狩「セス!」

そう思い近付こうとするが、何か様子がおかしい。

巫狩「…?」

巫狩「…どうかした?」

セスは少し険しいような顔をして、それ以上動こうとはしない。

セス「…………。」

少しの沈黙が流れたと思うと、セスが不意に口を開いた。

セス「…ねぇ、イツキ君。」

セス「僕らが出会った事に、意味なんてあるのかな。」

セス「僕らが出会って、こうして友達になれた事に、何か意味があるのかな。」

巫狩「……………。」


コツ、コツ…

セスはそのまま近付いて来る。

セス「僕らじゃ無くてもそう。生き物だって、何だって───。」

セス「生まれて、生きて、また消えて…。」

コツ、コツ…。

セス「──そこに、何か意味はあるのかな」

巫狩「……ッ。」

気付けばもう、セスは目の前にまで近付いていた。

巫狩「………」

巫狩「…そ、それは」

セス「イツキ君は、もう気付いてるんじゃない?」

巫狩「…ッ!」

 意味は、あるはずだと。そう言おうとした巫狩の一言をセスが遮った。

???「巫狩!!」

そう、突然背後から呼ばれた。

駆けてきたクレイが二人を見つけたのだ。

巫狩「───ッ。」

不意に声を掛けられ、後ろを振り向こうとしたその時であった。


────ガチャリ。


巫狩「……?」

そう聞こえたような気がした。
不可解で、場違いな金属音。


ドンッ。

突然、巫狩の体が後ろへ倒れる。
セスが巫狩の体を押したからであった。

そしてその次の瞬間───!


ズダダダダダダダダダダダダダダンッッッッ!!!!



巫狩「…………えっ?」

突如、セスの体がおもちゃの様に弾ける。


ズダダダダダダダダダダダッッッ!!!!!!


ビシャビシャビシャビシャッッ!!


 人間と同じように形成されたはずの体が、有り余る程の弾幕によってビシャビシャと弾け飛んでいく。

巫狩「─────ッッ。」


巫狩「なっ……な…な、な……………っ。」

巫狩の思考はその時既に、考える事を止めていた。


ズダンダンダンダンッッ!!


ビシャッ!!ビシャアッッ!!


クレイ「撃つなァーーーーーーーッッッッ!!!!」


クレイの制止を境に、銃撃が一斉に撃ち止められる。


シュウウゥゥゥゥゥ……。

巫狩「……………。」

ドザアッッ。

巫狩「─────セ、」

巫狩「セスッッ!!!!」

考えるより先に、体が動き出していた。
巫狩の思考は、原型をもはや保っていられない程の損害を受けた親友の体が目の前で崩れ落ちる事によって、ようやく再び動き始めた。

巫狩「あ………ぁ、あ………。」

クレイ「──────ッ。」


ビチャッ……ビチャアッッ……

巫狩「あぁ……ああっ……ぁあ、あ……………。」

抱き抱えようとすると、撃ち抜かれた体の一部が損傷のあまり崩れ落ちて行く。

巫狩「あぁ……あっ、あ……あ……そんな………っ」

クレイ「……………ッ」

クレイ「……!」

 その時クレイは射撃を終えた上階の特殊部隊の中にたった一人、自分の記憶が見知っている人間の顔をその視界に捉えた。

クレイ「あ…あれは……ッ!」

???「………。」

上階に居る人物。それはクレイ達の上官、撓木(しなぎ)上官であった。

撓木「………………。」

クレイ「……………ッッ。」

巫狩「あぁっ……あぁっ………!!」

巫狩「だめだ……っ!そんなっ……!!」

ボロ…ボロ…

……ドチャッ。

巫狩 (~~~~~~!!!)

 いくら持ち上げようとしても体の損傷が激しいあまり、撃ち抜かれた部位が中心となって崩れ落ちてしまう。

 巫狩は必死に、そして傷付けないよう細心の注意を払いながら、涙ながらにようやくその体を持ち上げる事に成功したのだった。

巫狩「───セッ……ッ。」

巫狩「セスッ…!セス……ッッ!!」

もはや正常に呼吸する事も忘れ、半ば過呼吸ながらにその名前を一心不乱に呼び続ける。


セス「………………ぅ………ぁ…。」

巫狩「!!!」

巫狩「セスッッ!!!」

セス「…………」

セス「……イ、ツキ…………くん………。」

巫狩「────ッ。」

セス「…僕らは……。」

巫狩「!?」

セス「僕らは……元々……。」

セス「こうなる………はずだったんだよ……。」

巫狩「……ぇ?」

そう言うと、セスは損傷した手で静かに巫狩の頬に触れた。

セス「……でも……だいじょう、ぶ……。」

セス「…もし、そうだったと……しても……。」

セス「イツキ君、なら……。」


セス「イツキ……君、なら……………。」


巫狩「─────!」



…………………………………………。



巫狩「…………………ッッ!!」


その沈黙の意味が、巫狩にはもう分かっていた。

巫狩「………うぅっっ……ぅぅっっ……。」

巫狩「うっ…うっ………うぅぅ……っっ……。」



クレイ「…………………。」

その時クレイには、巫狩に対して何て言ってあげたらいいのかが分からなかった。

そしてそれは、クレイの後を追ってきたゼル達一同も同じであった。


ゼル「………………。」

レオネル「………………。」


クレイ「……………ッッ。」

巫狩「うぅっっ……うぅっ………。」

巫狩「…ううぅぅっ………。うぅ………。」


ただそこに、巫狩の悲痛の嘆きだけが響いていた──。





EST本拠地内、上官室────。


クレイ「…どういう事ですかッ!?」

クレイ「初めからあれは、被検体を狙った掃討作戦なだけであって、地球外生命体(ゾディアック)など初めから現れていなかったなど───ッ!」

撓木「…分かってくれ。これが本部の命令なんだ。」

クレイ「ならばどうして、我々には事前に知らされなかったのですかッ!?地球外生命体(ゾディアック)の事なら、本来であればまず初めに我々に連絡が来るはず───ッ!」

撓木「…本部直属の命令だ。我々には、どうする事も出来ない。」

クレイ「そんな……ッ!!」

クレイ「なら…ッ。」

クレイ「なら……ッ!アイツは───ッ!!」



巫狩「…………。」

暗い世界。巫狩は、ESTの自室でただ一人塞ぎ込んでいた。

巫狩 (……………。)

…

(セス:こうなる……はずだったんだよ……。)

(巫狩: ……ぇ?)

(セス:イツキ君なら………。)

(セス:イツキ……君……なら…………。)

…

巫狩「…………。」

巫狩は、あの時言われた言葉を思い出していた。

…

(セス:僕がずっと……)

(セス:そばにいるからさ……。)

…

巫狩「………ッッ。」

巫狩「────分かんないよ。」

巫狩「……分かんないよ、そんなの……。」


冷たい部屋に、巫狩の声が静かに響いた───。