翌朝、芙蓉は花紋を鏡で見た。

 花びらの形が、夢の老女の言葉と共鳴するように脈打つ。花巫女とは、古代に神々に音楽を捧げ、人々の心を癒した巫女の血統だと、村の古老から聞いたことがあった。

 花巫女は、山茶花の花紋を身に宿し、琴や歌で人々の悲しみを癒し、希望を与えたという。
 芙蓉は自分の不器用な過去を思い、そんなわけないと思いながらため息をついた。それでも、半信半疑だったが少しだけ胸の奥に希望が芽生えた。

その日、芹の琴の稽古に付き添った芙蓉はふと琴に触れた。

 普段なら音を外す彼女の指は、まるで導かれるように弦を弾いた。
 澄んだ音が響く。雪解けの水滴が岩を滑るような、繊細で力強い音色だった。それだからか私には目も合わせることがなかった梅乃が目を丸くしてみせた。

「芙蓉、あんた…!?」

 そう梅乃は驚き言ったが、芹は笑いながら言った。

「姉さま。まぐれでしょ? そんなんで私の真似しないでよ」

 その軽視する口調に、芙蓉は唇を噛んだ。
 以来、彼女は夜、裏庭の物置で密かに琴を練習した。弦を弾くたび、花紋が温かく脈打ち、彼女の心に力を与え自分にとって癒しになった。