冬の夜、芙蓉は裏庭の井戸で芹の着物を洗っていた。凍える指で布をこすり、息が白く凍る。
 井戸の水面には、月が揺れ、冷たい風が裏庭の枯れ草を揺らした。ふと、首筋にちりっとした痛みを感じた。

 水面に映る自分の姿を見ると、首筋に山茶花の花びらのような紋様が浮かんでいた。淡い赤と白の花弁が、月光に照らされてほのかに光る。驚いた芙蓉は、椿に相談した。

椿は紋様をじっと見つめ、眉を寄せた。


「こんな紋、初めてだ。客に見せるわけじゃなし、襦袢で隠しな」

 彼女の声は冷たく、こちらを見ようとしない様子に芙蓉は肩を落とした。
 しかし、その夜、芙蓉は夢を見た。雪に覆われた庭に、白い山茶花が咲き誇っていて庭の中央に立つ老女は、銀色の髪を風になびかせ、芙蓉に囁く。


『お前は花巫女の末裔。山茶花の紋は、神々の声を伝える印だ。心を開き、魂の音を奏でなさい』

老女の目は、芙蓉の魂を見透かすようだった。