数年後、芹は格子遊女として花月楼の看板娘になった。彼女の部屋は二階の陽当たりの良い一室で、螺鈿の箪笥や金屏風が置かれ、窓からは庭の桜が見えた。
芙蓉は新造のまま、一階の薄暗い部屋で暮らし芹の着物の洗濯や客の残した膳の片付けをしていた。
芹は芙蓉に軽い口調で言った。
「芙蓉姉、私みたいに目立つの、難しいよね? でも、姉貴は私の世話係で十分でしょ?」
その言葉に、芙蓉は笑顔を装ったが、心は軋んだ。芹の優越感が、姉の胸に棘を刺す。
そんな時、芹に常連客が現れた。
若き商人・佐野次郎は、絹織物の交易で財を成した男で、笑顔が爽やかだった。
芹が舞うたび、彼は目を輝かせ、彼女に詩を贈った。
「芹の舞は、春の風のようだ」
彼の言葉に芹は頬を染め、芙蓉に囁いた。
「次郎さん、素敵よね。私の舞を見て、いつも褒めてくれるの」
芙蓉は微笑んで「良かったわね」と言った。
妹の恋心に寂しさを感じた。自分にはそんなときめきすらなかったから。



