新造の日々は過酷だった。

 朝は廊下を雑巾がけし、昼は先輩遊女の着物を畳み、夜は客の酒を運んだ。稽古では、舞、歌、琴、詩作を学んだ。
 その中でも舞で芹は輝いた。

 彼女の舞は蝶が花を舞うようで、歌声は小鳥のさえずりのように軽やかだった。
 師匠の老女・梅乃は目を細めた。「芹は花魁の器だよ」と言うほどだった。


 一方で、芙蓉は不器用だった。
 扇の動きはぎこちなく、琴の弦を弾けば音が外れた。梅乃は冷たく言った。

「顔はいいが、芸がなっちゃあね。芹の引き立て役にしときな」

 芙蓉は俯き、胸に刺さる言葉を飲み込んだ。
 夜、芹が客の前で舞う姿を、芙蓉は欄干の影から見た。

 芹の緋色の着物が揺れ、客の拍手が響く。芙蓉の手には、芹の着物を畳んだしわが残っていた。