芙蓉の番が来た。彼女は黒い絹の着物を纏い、首筋の山茶花の花紋をあえて見せる。
清隆から贈られた山茶花の髪飾りを挿した。琴を手に舞台に立つと、客席が静まり返る。
琴を手に持つ瞬間、弦が緩んでいることに気づいた。芹の細工だ。
客席がざわめく中、芹は舞台袖でくすっと笑った。
「姉さま、ごめんね。これで終わりだよ」
しかし、芙蓉は動じなかった。彼女は冷静に琴を膝に置き、素早く弦を調整した。
指先が弦に触れるたび、微かな音が響き、客席のざわめきが静まった。彼女は目を閉じ、蕭条村の川辺、母の笑顔、芹の舞、そして清隆の告白を思い浮かべた。
「君は花巫女だ。私のそばで、自由に音を奏でてくれ」
花紋が脈打ち、彼女に力を与えた。深呼吸を一つし、指が弦を弾いた。



