花競べ当日、花月楼はかつてない華やかさに包まれていた。
 庭には桜の花びらが舞い、提灯の明かりが夜空を彩った。客室は貴族や豪商で埋まり、絨毯には金箔の菊模様が輝いた。

 遊女たちは緋や紫の着物を纏い、髪には玉や金の簪を挿していた。舞台は黒檀の床に白木の枠が施され、背後には金屏風が立てられている。

 客席からは沈香と白檀の香りが混ざり合い、緊張と期待の空気が漂った。舞台脇の深紅の幕は、風に揺れるたびに絹の音が微かに響いている。

 そんな中、芹の舞が始まった。彼女は緋色の十二単を纏い、扇を手に、月光の下で蝶のように舞う。袖が風を切り、足音が舞台に響く。
 彼女の黒髪は金の簪で飾られ、動きに合わせて光を反射した。舞は春の花が咲き乱れるような華やかさで、客たちは息をのんだ。
 佐野次郎は客席から目を離さず、微笑んだ。
 拍手が沸き起こり、芹は舞台を降り、芙蓉に囁いた。


「姉さま、これを超えられる? 無理だよね?」


 その自信に満ちた笑みに、芙蓉は静かに目を伏せた。