花月楼に戻った芙蓉は、女将から破格の待遇を受けた。

 新造から格子に昇格し、琴の師匠として遊女たちに教える立場になった。

 芹は苛立ちを隠さず、芙蓉に言った。


「姉さま、急に目立っちゃってさ。私が看板娘なのに、なんで私の光を奪うの?」


 芙蓉は芹の言葉に静かに答える。


「芹、私も自分の道を歩きたいだけだよ」


 芹は笑顔を装ったが、目には嫉妬の炎が燃えていた。
 芹は佐野次郎に愚痴をこぼした。


「姉が急に琴が上手くなって、みんなの注目を奪ってるの。私の立場が危ないよ!」

 だけど、次郎は優しく言う。

「芹の舞は唯一無二だ。芙蓉殿の琴は素晴らしいが、君の輝きは誰も真似できない」

 そんな言葉に芹は頬を染める。心の奥では芙蓉への対抗心が燃えていた。

 花競べが近づく中、芹は芙蓉の琴の弦を細工し、舞台で音が狂うように仕組んだ。

「姉様には悪いけど、花魁は私だけでいいよね」


 そうやって呟く芹の目は、野心に燃えていた。