清隆の指導は厳しくも優しかった。
 ある夜、芙蓉が音を外すと、彼は彼女の手を取り、弦の押さえ方を教えた。

「ここを、こう押さえるんだ。力みすぎず、風の流れをイメージしてみて」


彼の指が芙蓉の手に触れ、彼女は心臓が跳ねる。
 遊女として、客との距離を保つのが鉄則だったが、清隆の真摯な眼差しに、芙蓉は心が揺れた。


「清隆様、私は遊女です。こんな気持ち、持っちゃいけない」


 そう言いながらも、芙蓉は自分に言い聞かせた。
 だけど、彼の笑顔が頭から離れなかった。


 清隆もまた、芙蓉に惹かれる自分に戸惑っていた。彼は公卿として、多くの女性を見てきた。
 芙蓉の純粋さと音色に心を奪われた。

 ある夜、彼は書斎で一人、芙蓉の琴の音を思い出し、呟いた。

「彼女は遊女かもしれない。だが、彼女の魂は神々に通じる。こんな気持ち、初めてだ…」

 彼は自分の孤独な心が、芙蓉の存在で温まるのを感じ、彼女を愛していることに気づいた。

 しかし、公卿としての立場と、芙蓉の遊女という身分差に、胸が締め付けられていた。