修復魔術士の孫

 六月の半ば、公国では白夜の時期に入った。この時期になると、公国の人々は非常に高揚した気持ちになる。
 有給休暇を長く取り、自分の時間をゆったりと過ごすのが恒例(こうれい)なのだ。

 酒が好きな者は、朝から酒を飲みながら、次の日まで談笑を楽しむ。
 また、アウトドアが好きな者は、川の(そば)でフィヨルドを(なが)めながらキャンプをし、大自然を満喫(まんきつ)する。

 夜が無く、一日中ずっと陽の光を感じ続けると、人々はより陽気になり、一年で最も活動的になるようだ。



 その頃、ドロシーに再び新たな仕事が入った。彼女の故郷であるセイホク村へ出張する予定になったそうだ。


 ある日の朝、ドロシーとルルは、日の出から間もない時刻に〈修復屋〉を出発した。
 朝食を早めに食べて、彼女たちは早朝に外に出たようだ。


 すっかり外気は夏らしくなり、太陽が燦々(さんさん)と照らしていない時間帯も、非常に涼しくて心地良い空気に変わっている。
 ドロシーもルルも、自然と穏やかで明るい気持ちになっていた。

 と、ドロシーたちがセイナン町の中心地へ向かおうとした時、向かい側から聞き覚えのある声が聞こえた。

「あっ! ……サイモン様。いらっしゃいましたよ~」

 ドロシーとルルが声が聞こえた方向を見ると、サイモンが駆け足で彼女たちに近づいてきているのに気が付いた。
 サイモンのすぐ近くに、数日前に見かけた使い魔らしきチョウゲンボウが飛びながら、前に向かってきた。

 サイモンがドロシーたちの(そば)まで来ると、ドロシーとルルは立ち止まったようだ。

「ドロシー……。と、サビ猫さんの名前は『ルル』だったかな?? おはようっ」

「うん、そーだよ。……サイモンさん、おはよう」

 ルルの後にドロシーも「おはようございます」と言うと、チョウゲンボウも元気良く朝の挨拶(あいさつ)を返した。

「ドロシーさん……でしたねっ、おはよーございまッス! サイモン様から、お名前を(うかが)っていますよ~」

 荒くなっていた呼吸が落ち着いてくると、サイモンはドロシーの顔を見ながら話を始めた。

「クララがな。……ああ俺の妹が、アンタに自分の私服を直して欲しいみたいで。
 ああ、知り合いから聞いたんだけど、今日はセイホク村へ仕事に行くんだってな。昼前に仕事が終わった頃、オレも公民館の空き地に行くから、一旦声をかけてもいーか?」

「はい、分かりました。あっ、セイホク村での業務を終えたら、実家で昼食を食べる予定で……。クララさんにお会いするのは、その後でも構いませんか?」

「そっか、了解! なら、そっちの仕事が終わって一時間くらいしたら、実家の近くまで行ってから、オレらの家まで案内するわっ。それでいいか?」

 ドロシーは「分かりました、ありがとうございます」と、ハキハキした声でサイモンに伝えたのだった。
 すると、ドロシーはチョウゲンボウの方を見つめて、言葉を続けたようだ。

「そういえば、こちらの鳥さんはサイモンさんの使い魔……ですか??」

「ううん、実は違うよ~。こいつはクララの使い魔で、たまにオレがいろいろ頼んでたりするってコト。で……、もう一羽が親父の使い魔。今は親父の(そば)で働いているよ」

 そのようにサイモンがウォード家の使い魔について説明し終わった後、空中に居たチョウゲンボウはサイモンの片肩に移ったようだ。
 サイモンの肩に乗ると、チョウゲンボウは胸を張りながら、ドロシーたちの方を向いた。

「オイラの名前はロニーっす! ドロシーさんもサビ猫さんも、よろしくデスッ。
 ……てっ。あっ、ジョセフ様が待っていらっしゃるから、もうそろそろマンナカ城に戻らないと、ッスね」

 そして、サイモンは「おっと、そうだな」と言うと、ロニーと共に、再び駆け足でマンナカ城へ戻ってきたのだった。



 サイモンとロニーと別れた後、ドロシーとルルはサイホク村へ行くために歩き始めた。
 彼女の家である〈修復屋〉から目的地までは距離があるため、徒歩で向かうのは厳しいらしい。それ故、彼女たちは、まず近場にある馬車の停留所に向かった。


 一番近い停留所は、〈ヒダマリ大聖堂〉の前にある広場にあるようだ。
 ドロシーとルルが停留所に着くと、すでに馬車が停まっていた。帽子(ぼうし)(かぶ)った御者(ぎょしゃ)も、目立たない場所でゆっくりとパイプ煙草(たばこ)を吸っていた様子だった。

 始発の馬車を使う者は他に居ないようで、ドロシーとルルが乗ると、馬車はすぐに出発した。
 中年男性らしい御者は、慣れた手つきで、四頭の馬を動かすために、綱を器用に(あやつ)り始めたようだ。

 そうして馬車はセイホク村へ向かうために、石畳(いしだたみ)の大通りを通り過ぎて行くのだった。