トーコはお湯を温め直すと、カモミールティーをパパっと作り、テーブルの上、オズワルドの目の前に置いた。
 その後、自分のお代わりの分も入れると、ゆっくりと席に着いた。


 一方で、後ろから二人を見ているエドガーは、何だか不機嫌そうだ。黒光りしている顔から、眉間(みけん)(しわ)を寄せているのが、何となく分かる。

「ほとんど知らぬ男を、躊躇(ちゅうちょ)無く、家の中に入れおって……。お前は無防備過ぎるぞっ!」

 エドガーは、長年トーコと顔見知りだったので、まあ、身内のような気持ちになっていても、不思議ではない。

「エドガーが居れば、じゅーぶんっ、防犯になるじゃんっ。それに、()()()()()()、変な色の髪と()の女……、誰も相手になんかしないから」

「なっ……。ま、全くっ……、『神の化身』とされる誇り高き竜を、番犬扱いしおって……」

 まるで喜劇のような会話だったので、オズワルドは、聞こえるか聞こえないか分からない程度の小声で、フッ……と笑った。
 だが、トーコの言葉の一部に対して、()()()()()()()()()を感じていたため、彼は心の奥で、少しモヤモヤとしていたのだった。

「そーいや、アンタ……。確か、王族の血筋だったか?」

「あっ、はい。そうです」

「町よりも、ココは暮らしにくいと感じたことは、無いのか?」

「……そーいうのは、無いですね。とっても静かで、心が休まりますし……。あと、周りの方々からは、いい意味で特別扱いされていないので、少しだけ気が楽かもしれませんね」

「……そうか」

 トーコの言葉を聞いて、さっきまで固い表情をしていたオズワルドは、穏やかに微笑んだ。

「あっ! 少し暗くなってきたかな?」

 トーコが玄関のドアから、外の様子を確認すると、太陽が西の方角に(しず)み始めていた。にわか雨も止んでいるようだ。

「日の入り前には、戻らねーとな。……馳走(ちそう)になった」

 オズワルドは、流し台の横に入れ物を置くと、早足で外に出た。

「いえ。短い距離ですが、お気を付けてっ!」