その日の昼間、太陽が南中した少し後のこと。トーコは家で、まったりとカモミールティーを飲んでいた。

 家と言っても、他の民家よりは一回りか二回り小さい。木造建ての、縦長の家である。
 台所の後ろの、天井が高い竜専用の休憩場所では、エドガーが昼寝をしているようだ。

 その時、玄関からドアをノックする音が聞こえた。

「はーいっ!」

 台所に居たトーコがドアを開けると、一人の青年が立っていた。
 すると、ノックの音で目が覚めたエドガーが、目を真ん丸くして、玄関の方を凝視した。

「……んっ、お前はっ!」

「今朝、温泉に入りに来た者だ。突然で、わりぃな」

「え……あ、いえっ! 何でしょうか?」

 青年の顔を見た瞬間、トーコは息を()んだ。

(書物の絵から、飛び出てきたよーな人だなぁ……)

 (みどり)色の()に、銀髪の緩い癖毛であった。日に焼けた肌が、美しい銀髪をより引き立たせている。
 それから、右顎(みぎあご)から下に、真っ直ぐな深い傷があるようだ。
 
 トーコは、思わず青年に見惚(みと)れてしまいそうになった。

「朝の()びを持ってきた。ラズベリーは好きか?」

「あ、はいっ! ありがとうございます」

 青年から薄紙に入ったラズベリーを受け取ると、トーコは平常心に戻れるよう、深呼吸をした。

「えぇと……あ、あの、私は――」

「名前は知っている。団長から聞いた」

「あっ……もしかして、山岳警団の方ですか?」

「ああ。すぐ近くの詰所から来た。……オズワルドだ」

 トーコが、ふと気が付くと、パラパラと雨が降り出していた。

「にわか雨かな? あっ、立ちっぱなしでは申し訳ないので、もし良かったら、中に入ってください。
 ……えーと、オズワルドさん。カモミールティーは、苦手ではないですか?」

「ああ」

 家の中に招かれたオズワルドは、トーコに台所のイスに案内されたのだった。