初代国王はサミュエル王だというのは、ハンゲツす王国の全国民が知っている。

 古い文献(ぶんけん)には、国王になる前は、彼は貧しい漁村出身の貿易商人だった、と書かれている。
 また、外国から来た商屋や船乗りの友人が多く、七つの言語を流暢(りゅうちょう)に話すことができた、と伝わっている。



 時代は長々と過ぎるが、現国王はアイザック王である。前国王テオドール王の長男だ。
 王弟の一人、次男のオスカーは、(まつりごと)の補佐官として、アイザック王を支えている。

 アイザック王の姉のハンナは、イシヅミ町の孤児院で働いている。
 
 次女のグレースは、ブドウ酒の大きな醸造所(じょうぞうじょ)に嫁いだ。


 そして、もう一人の自分の王弟、三男のジョンは、王家の御者(ぎょしゃ)として、馬小屋の近くで暮らしている。
 彼の妻は、王国と長年親交がある、東方の小さな島国の出身だった。当時、疫病(えきびょう)蔓延(まんえん)していたせいで、彼女は若い時に、祖国で亡くなったらしい。