再び大通りに戻ると、ちらほら軽食屋が開店し始めていた。
窯焼きで焼き立ての、芳ばしいパンの香りが漂っている。
「長旅だったからか、すっごくお腹が空いちゃった」
「そうだな。ゆっくりできそーなとこ、探すか……」
王宮に向かいつつ、トーコとオズワルドは一軒一軒、店の中の雰囲気を確認していく。
そして、王宮のすぐ近く、正門がよく見える位置まで歩いたところで、二階建ての広々とした店を見つけた。
広さの分、客もあちらこちらに分散していたようだったので、二人はその店に入った。
一階の窓際の席に案内されて、トーコとオズワルドは、テーブルの上の木製のメニュー表を見た。二人とも頼みたい物がすぐ決まると、オズワルドが定員に二人分の注文をした。
トーコは豆入りの小麦粥、塩味の茹でた豚肉、サラダを……。オズワルドは平たくて少し固いパン、魚醤味の焼いた羊肉、トーコと同じくサラダを食べた。
食後には、二人とも店のオリジナルブレンドハーブティーを飲みつつ、スモモソース入りのヨーグルトまで平らげた。
ひと休みした後の会計の時、オズワルドは「伯父さんとこに、一緒に行ってくれた礼だ」と言って、トーコの分まで支払った。
「あっ、ありがとう」
トーコがお礼を言った後、店の外に出ると、大通りを歩いている人々が徐々に増えてきたようだ。
「後宮なら、裏口の方が近かったか?」
「え、あっ、そうだね!」
今日は晴天で、涼しい秋風が程良く吹いている。
非常に心地良い空気を感じるためか、王宮の周りには散歩している人も数人か居るようだ。
王宮の裏門の前に着くと、トーコは一気に緊張感に襲われた。大きく深呼吸をすると、「よしっ」と小声で呟いた。
「オスカー様を通して、ジョン様には伝えてある。食事会の後に、馬小屋の前に行く」
「分かったよ。お父様に会ってくれるんだね?」
「ああ。……行ってこい」
向かい合っていたオズワルドは、右手をトーコの片頬に触れた後、彼女の額に軽く口付けた。
トーコは裏口から後宮に入ると、王宮で暮らしていた時に使っていた部屋に向かった。庭を抜け、細い通路から廊下に入ると、彼女は右側の突き当たりまで、早歩きで目指すのだった。
目的の部屋の近くまで行くと、部屋の前には一人の侍女が待機していた。
侍女はトーコに気付くと、両手で服の裾をヒラリと少し上げ、腰を下げて挨拶をした。
侍女と共に部屋に入ると、トーコは化粧台の前に座った。
侍女は、トーコと年齢が近そうな少女のようだ。背丈も、トーコとほぼ変わらない。
「……お水、こちらに置いておきますね」
少し緊張したような、小さくて高い声で話すと、トーコの方を見た。
「ありがとう。あ……先に、正装に着替えようかな」
トーコは、持参したツバキ油で髪をまとめて、クローゼットまで移動すると、侍女が中を開けてくれた。
数種類ずつ絹のチュニカとティアラを選びつつ、クローゼットの横の姿見も見つつ、トーコはひと通り正装に着替えた。
着替え終わると、トーコは再び化粧台の前に座り、ガラスのカップに入った水を飲んだのだった。
(侍女の子……、感じ良かったから、少し安心したな)
食事会の前に、長めの休憩を取っていたトーコだが、ふと窓の外を見たら、ちょうど太陽が南中の辺りのようだった。
化粧台前のイスを律儀に戻すと、トーコは侍女に「もうそろそろ行くね。ありがとう」と声をかけた。
トーコが部屋を出ようとした時、侍女は再び服の裾を上げて、丁寧に見送りをしたのだった。
窯焼きで焼き立ての、芳ばしいパンの香りが漂っている。
「長旅だったからか、すっごくお腹が空いちゃった」
「そうだな。ゆっくりできそーなとこ、探すか……」
王宮に向かいつつ、トーコとオズワルドは一軒一軒、店の中の雰囲気を確認していく。
そして、王宮のすぐ近く、正門がよく見える位置まで歩いたところで、二階建ての広々とした店を見つけた。
広さの分、客もあちらこちらに分散していたようだったので、二人はその店に入った。
一階の窓際の席に案内されて、トーコとオズワルドは、テーブルの上の木製のメニュー表を見た。二人とも頼みたい物がすぐ決まると、オズワルドが定員に二人分の注文をした。
トーコは豆入りの小麦粥、塩味の茹でた豚肉、サラダを……。オズワルドは平たくて少し固いパン、魚醤味の焼いた羊肉、トーコと同じくサラダを食べた。
食後には、二人とも店のオリジナルブレンドハーブティーを飲みつつ、スモモソース入りのヨーグルトまで平らげた。
ひと休みした後の会計の時、オズワルドは「伯父さんとこに、一緒に行ってくれた礼だ」と言って、トーコの分まで支払った。
「あっ、ありがとう」
トーコがお礼を言った後、店の外に出ると、大通りを歩いている人々が徐々に増えてきたようだ。
「後宮なら、裏口の方が近かったか?」
「え、あっ、そうだね!」
今日は晴天で、涼しい秋風が程良く吹いている。
非常に心地良い空気を感じるためか、王宮の周りには散歩している人も数人か居るようだ。
王宮の裏門の前に着くと、トーコは一気に緊張感に襲われた。大きく深呼吸をすると、「よしっ」と小声で呟いた。
「オスカー様を通して、ジョン様には伝えてある。食事会の後に、馬小屋の前に行く」
「分かったよ。お父様に会ってくれるんだね?」
「ああ。……行ってこい」
向かい合っていたオズワルドは、右手をトーコの片頬に触れた後、彼女の額に軽く口付けた。
トーコは裏口から後宮に入ると、王宮で暮らしていた時に使っていた部屋に向かった。庭を抜け、細い通路から廊下に入ると、彼女は右側の突き当たりまで、早歩きで目指すのだった。
目的の部屋の近くまで行くと、部屋の前には一人の侍女が待機していた。
侍女はトーコに気付くと、両手で服の裾をヒラリと少し上げ、腰を下げて挨拶をした。
侍女と共に部屋に入ると、トーコは化粧台の前に座った。
侍女は、トーコと年齢が近そうな少女のようだ。背丈も、トーコとほぼ変わらない。
「……お水、こちらに置いておきますね」
少し緊張したような、小さくて高い声で話すと、トーコの方を見た。
「ありがとう。あ……先に、正装に着替えようかな」
トーコは、持参したツバキ油で髪をまとめて、クローゼットまで移動すると、侍女が中を開けてくれた。
数種類ずつ絹のチュニカとティアラを選びつつ、クローゼットの横の姿見も見つつ、トーコはひと通り正装に着替えた。
着替え終わると、トーコは再び化粧台の前に座り、ガラスのカップに入った水を飲んだのだった。
(侍女の子……、感じ良かったから、少し安心したな)
食事会の前に、長めの休憩を取っていたトーコだが、ふと窓の外を見たら、ちょうど太陽が南中の辺りのようだった。
化粧台前のイスを律儀に戻すと、トーコは侍女に「もうそろそろ行くね。ありがとう」と声をかけた。
トーコが部屋を出ようとした時、侍女は再び服の裾を上げて、丁寧に見送りをしたのだった。

