神花の姫と夜叉王の加護

神殿の朝は、静かで荘厳だった。
浅葱は神殿の石段を一歩一歩登りながら、自分の心の内を確かめていた。

「私はもう、ただ誰かに選ばれるだけの存在ではない」

かつては陰に隠れ、誰にも気づかれずに生きてきた少女が、今では堂々と神殿の側近として仕える身となった。
その役目は重いが、自らの意志で選び、歩む人生の始まりでもあった。

夜叉王はいつも通り厳しくも優しい眼差しで彼女を見守っていた。
彼は浅葱の成長を誰よりも誇りに思い、その姿に確かな安堵を感じていた。

「浅葱、お前はよくここまで来たな」

夜叉王の声はいつもより柔らかく、まるで少女に語りかけるかのようだった。

「はい。もう誰かに依存したり、怯えたりしません。私は、私自身の力で生きていきます」

浅葱の言葉は揺るぎなく、自信に満ちていた。
その瞳の奥には、深い覚悟と、新たな未来への希望が輝いている。

「それが、お前の本当の力だ」

夜叉王はそう告げると、そっと手を差し伸べた。
その手を浅葱は迷うことなく取り、二人の距離は自然と近づく。

神殿の厳かな空気の中で交わされたその手の温もりは、冷たくも熱い運命の証明だった。

「これからは共に、この国を守り、導いていこう」

夜叉王の言葉に浅葱は静かに頷いた。

「はい……一緒に」

恋の始まりはまだほんの微かな光だ。
だが確かにそこに存在し、二人の未来を照らし始めていた。

浅葱は深呼吸をし、見上げた空に淡い光の筋を見つけた。
それはまるで、神々が彼女の新たな旅立ちを祝福しているかのようだった。

「私の居場所はここにある――」

その言葉は風に乗って広がり、神殿の石壁を優しく撫でた。

自己を確立し、真の自由を掴んだ浅葱の物語は、今まさに幕を閉じる。
そして、新しい未来への扉はゆっくりと、しかし確かに開かれていった。