それから屋敷も消火されたが、ほぼ消失。
 陸一郎は苦しんだ末に、病院で亡くなった。
 最後は、全ての人間への恨みを吐いての絶命だった。
 海斗が看取ったが、それを萌黄に伝えることはしていない。

 現場検証など色々おこなわれた為、萌黄は海斗が手配した旅館で数日過ごす事になった。
 そして海斗が迎えに来たのだ。
 
「影工房を他へ移すのですか」

「はい。屋敷は燃えてしまいましたし、あんな惨劇があった場所にはもういられないでしょう」

「……そうですね」

 真白を失った両親は泣き狂い、指輪の保管が杜撰だったせいだと海斗を訴えようとした。
 しかし、蔵の鍵を渡してしまったと庭師の男が証言したので、真白が不法侵入をした末……という判断になったのだ。
 それでも納得しない両親は、今後も海斗へ呪いを吐き続けるだろう。

 萌黄は世間一般では、未亡人になってしまった。
 両親は萌黄へ会いに来ることも、言葉をかけることもないままだ。

「……海斗さんは海外に戻られますよね……」

 海斗はきっと留学先に戻るだろうと、萌黄は思う。

 私はこれから……どうしよう?

 色々な事が重なりすぎて、痩せた萌黄。
 真白への想いは、まだ整理できていない。

 そんな萌黄に海斗は手を差し出して微笑んだ。

「萌黄さん。俺は留学先へはもう戻らないことにしたのです」

「えっ……ではこれから何を?」

「やっぱり俺は売るより創ることが好きですし……祓魔騎士の使命を果たしながらも、新しい影工房で新しい技術開発をしていきたいです」

「それは素晴らしいですね……応援しております」

「何を他人行儀に! 萌黄さんも、俺と一緒に来てくれますよね?」

「私も?」

「俺が貴女に助けられて、ずっと恋をしていた事はもうご存知なんですよね?」

「……あのときの男の子が貴方だったなんて……でも恋なんて幻です……私はただの手伝いだったのですよ」

「手伝いだったとしても、俺は貴方に励まされて命を救われたんです。そして左腕と共に祓魔騎士にもなれて、魔道具技師にもなれたのです。憧れである命の恩人を好きにならないわけがありません。それに俺は影工房で一緒に過ごして、今の貴女を心から愛しています」

「……でも、私は疫病神で……」

「貴女の責任など、何もありません。酷い悪夢を見せられただけです。これからは俺が貴女に幸せだけを捧げたい。俺と一緒に、魔道具を作って精進していきませんか?」

「海斗さん……」

「萌黄さん。俺と一緒になってください」

 海斗が差し出した手を、萌黄も優しく握る。
 騎士であり職人でもある、温かくて大好きな手。

「……はい、よろしくお願いいたします」

 歪んだ愛に翻弄された二人。
 それでも真実の愛を掴み取ることができた二人。
 これから、新しい影工房で人々の幸せのために仲良く魔道具を作っていく事だろう。
 萌黄の幸せは、これから始まる。


 「影工房の匠姫」・完