結婚式は、冠崎家屋敷で行われた。
 真白が『無駄遣いするもんじゃないわよ、お姉ちゃん』と言って、全てを決めた。
 結婚式と言っても、昔ながらの家での祝言のようだ。
 親族の前で誓いを立てるだけ。
 宴会もかなり質素なもので、祝い金を包んだ親族達は嫌な顔をして帰っていった。
 
「地方から来て、これかい。来て損したね」

「も、申し訳ありません……」
 
 謝り、見送るのは新婦の萌黄のみ。
 陸一郎は、屋敷の洋風パーティーホールで真白と飲み明かしている。
 萌黄の両親も、祝い金を見て嬉しそうに大酒を飲んで、これから帝都のダンスホールへ行って高級ホテルへ泊まると出て行った。
 陸一郎の両親は既に他界している。
 
 花嫁姿で立ち尽くす、萌黄に残るのは、恥ずかしさと情けなさ。
 食欲もなく、目眩がする。
 萌黄は一人部屋に戻ったが、後を追う者はいなかった。
 
「萌黄様、初夜です。お支度をしてください」

 屋敷に仕えるメイドから言われた時、 ゾッとした。

「しょ、初夜って……本当ですか」

「はぁ? 何を言っているんですか」

 微笑んでいたメイドが、急に馬鹿にしたような冷たい態度になる。

「早く支度してくださいよ!」

「はっはい……」

 メイドに怒鳴られ、言われるがままに白い洋風ネグリジェを着せられた。
 愛してもいない男に、抱かれる……?
 このまま逃げ出してしまいたい。
 
「さっさと行きなさい」

 怯える萌黄を見て楽しむようにメイドが、後ろから追い立てる。
 この屋敷は和洋折衷で、洋室もあるが和室もある。
 今回の初夜は、知っている部屋へ案内された。

「こちらです」
 
「でも……この部屋は……」
 
 萌黄は戸惑う。
 この部屋は、真白が選んだ豪華絢爛の客間だ。

「陸一郎様のいらっしゃる寝室までお行きなさい」

 メイドとは思えない低い声での恫喝。
 萌黄は、ネグリジェの上に羽織った白いストールをギュッと握りしめて、部屋に入る。
 やはり真白が使っている部屋だ。

 この部屋は真白の部屋……なのに、やはり陸一郎はここの寝室にいる?

 メイドは中まではついてこなかった。
 萌黄は、まるで化け物屋敷を歩くように洋間を通り過ぎて寝室のドアをノックした。
 
「あぁ、萌黄。入れ」

 出迎えることもしないようだった。
 ギィ……と、萌黄はドアを開ける。

 目に入った天蓋付きベッド。
 そこに横たわるのは、夫の陸一郎。
 そして……その夫にしなだれかかっているのは妹の真白だった。

「ま、真白……?」

「ごっめ~ん。お姉ちゃんの旦那さん、寝取っちゃった~うふふ」